小学生、借り猫競走！｜リアクション

小学生、借り猫競走！

◎借り猫競走　２
　
　全員ゴールするまで時間がかかるので、先の走者が帰るのを待たずに次の走者がスタートしていく。
　
「『はちわれねこ』？」
　夢月姫はカードの文字を読みしばし考える。
「あっ！　リコーダーのふくろのねこさんといっしょー」
　寝子小のリコーダーの袋は可愛い猫や動物のデザインで、姫のものは不愛想な灰色猫のデザインだった。
　可愛くてカッコよくてお気に入りのその猫に、姫は「てお」と名前をつけていつも持って来ている。
　運動会にまで？　とあきれられつつお母さんに預けていたのを思い出し、姫は観客席からリコーダー袋を受け取った。
（こっそりろっこんつかっちゃおう）
　バスケットを持ったまま目を閉じて。集中して猫の顔を思い浮かべて目を開く。
　すると、霧が湧きあがり矢印を形作った。この霧は他の人には見えない。
「はちのじねこさーんどこかな？」
　姫は矢印の方向に向かい走って行く。　

　同じく赤組の煌白燕。カードを見るとやはり『はちわれねこ』とあった。
「顔のもようが八の字になってる猫？　誰か！　誰か！　見た者はおらぬかー？」
　だが、白燕の問いに答えてくれる者はなかなかいない。
「鉢割れ猫？　頭が割れとるんかのお？　痛そうじゃのう」
「頭じゃなくて、顔のもようだ。割れてるみたいに、こう八の字に……」
　よくわかっていないお年寄りに説明しているうちに、ようやく通りがかった男の子が答えてくれた。
「校門のところで見たよ」
「了解した。謝謝！」

　姫は校門の上で寝そべっているテオを見つけた。
　なでなでしようとそっと近づく。
　が、テオはふいっと立ち上がり身を引いた。
「ねこさん、こっちもふかふかですよ」
　バスケットにはふかふかのタオルが敷いてあって温かだ。
　ておの形のリコーダー袋をパペットがわりに、しゃべってる風に動かす。
「ぼくはておっていうんですよ」
『うるせえな、テオは俺だ』
　テオの声が頭の中に響いたが、姫は驚かない。むしろ嬉しそうだ。
「えっとねこさんもおなじ名まえ？」
　じっとまっすぐ見つめてから、にこっと笑顔でお願いする。
「あんまりゆらさないようにがんばるからこっちでねてください。おねがいします」
『猫なら他をあたれ』
　子供相手にも冷たいテオだが、姫はあきらめない。
「わたしはておと同じテオがいいからほかにはいかないです」
　そこへ、白燕が走ってきた。
　テオを見つめてつぶやく。
「八割れ猫……そうだな確かにお前も八割れ猫であった……テオドロス・バルツァ……言いにくいから略してテオ」
『また余計なのが来たな』
　白燕はひとなのでテオの声は聞こえない。
「よく噂に聞く猫だ。子供の情報網だからと言ってなめるなよ。とにかくそなたを捕まえる……赤組のみんなが待っておるのでな」
「えっ、わたしも赤ぐみ……」
「いくぞーアイヤー！！！」
　口をはさんだ姫の言葉など聞かずにテオにつかみかかる。
「まって、らんぼうにしないで」
　逃げるテオとの追いかけっこが始まる。それを必死に追う姫。
　体育は得意な姫だが、三年生の白燕の足にはかなわない。
「そなたも追い込むのを手伝え」
「むりにつれていかないで、話してわかってもらいたいです」
　藪の中へ逃げ込むテオを追っていく白燕は、テオ共々ボロボロになっていく。