小学生、借り猫競走！｜リアクション

小学生、借り猫競走！

◎借り猫競走　１
　
　いよいよ借り猫競走。希望者の中から抽選で参加者が選ばれる競技だ。
　猫の負担を考えると大人数ではできない。
「よーい、ドン！」
　最初の走者グループがスタートを切った。

　頑張って走った白組の椎名あさひがカードを開いたら、『かぎしっぽのネコ』とあった。
「今日はあんまり見かけないねぇ……どこにいるのかなぁ……？　ぽかぽか日当たりのいいところをさがしてまわろうかなぁ」

　赤組の柚瀬玲音はマイペースに走る。
「さーて、ボクの探すねこーは何かな、かな！」
　カ－ドを広げる。
「引いたのは『こねこ』だよだよ！　こねこっていえばー、どこにいたっけ……？」
　玲音は首を傾げる。
「こうちょうせんせいのおへや？　でもあそこカギかかってなかったっけー？」
　とりあえずバスケットを持ち、走り出す。

「カッコいい所見せてやるぜ」
　白組、花月勝治郎が引いたのも、『こねこ』だった。
「子猫をつれてくればいいんだな！」　
（校長室はカギかかってるみたいだし、とりあえず校舎の裏に行ってみよう。ワルそうに見えて捨て猫がいたら優しくする男はかっこいいってどこかで読んだし）

　赤組の、佐藤プリンス雄太は『みけねこ』のカードを引いた。
「みけねこさんをつれてくるの？」
　首をかしげるとセミロングの銀髪が輝く。１年生ながら濃い美形である。
「どうやってつれて行こうかな。そうだ」
　雄太はバスケットを手にすると、保護者席の両親の元へ向かった。
「ママ、おべんとうに入っている魚をちょうだい」
「えっ？」　
「ねこさんだって、おねがいするだけじゃいやがっちゃうよね。だからお魚あげてたのむの」
　雄太は星ヶ丘のステッラ・デッラ・コリーナ従業員寮にすんでいる。
　母は、運動会のお弁当の材料を奮発していた。本来は野良猫の口に入るような魚ではない。
「はい。気をつけてね」
　けれど母は、高いお魚を一切れバスケットに入れてくれた。
「ありがとう、いってくるね」
（オレの力じゃあんまり重いものはもてないし、ついてきてくれないとゴールもむりっぽい気がするし）
　三毛猫を求め、雄太は花壇へ走る。
「いた！」
　驚かせないよう、ゆっくり近づく。
（オレの言うことわかってくれないとおもうけど、いっしょうけんめいはなせば気もちはつうじるんじゃないかな？）
「おねがいします、おじょうさん、ついてきてくれませんか」
　お魚を差し出しながら、何かのテレビで見たことあるような気がするセリフを心をこめて言ってみる。
　三毛猫は、鼻をひくひくさせるとこちらへ寄ってきた。
　魚にかぶりつくと一心に食べ始める。
「えーと、こっちのカゴに入って？」
　雄太がお願いするが、見向きもしない。
「どうしよう」
　花壇の花をあげようか、とも思ったが。
　元々咲いている花だし、魚ほど興味を持ってくれないかもしれない。
　途方に暮れて泣きたくなった雄太だが、ぐっとこらえる。
（俺、小学生になったから泣かないんだ。うまくいかなくたって、頑張るんだもん）
　食べ終えた三毛猫は、背中を向けて去ろうとする。
「待って！」
　雄太は、その場に座り込み、三毛猫に向かって土下座した。
「おねがいします、いっしょにきてください」
（ねこさんもされてこまるかもしれないけど）
　興味を持ってもらえればいい、そう思っての真剣な土下座だ。
「にゃ？」
　首をかしげつつも、三毛猫がそっと近づいてきた。

「あなたのしっぽはかぎしっぽー？」
あさひはあちこちのネコさんにしっぽを見せてもらったが。
「みんなフツウのしっぽみたいだねぇ……あとは、ねているネコさんのかくれたしっぽを見せてもらわなきゃー」
　そっと声をかける。
「ネコさんネコさんしっぽ見せてくださいなー？」
　しかし寝ている猫はびくともしない。
「むりやりおこすのはかわいそうだよねぇ……ネコさんの近くにねころんでもしっぽは見えないかなぁ……」
　ごろん、と草の上に横になってみるあさひ。
「うーん……ぽかぽかしてなんだかねむくなってきちゃったなぁ……」
　まぶたが重くなる。運動会が楽しみで、昨日あまり寝付けなかったせいだろうか。
　いつの間にかあさひも、猫さんと一緒にかわいい寝息を立て始めていた。

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