フツウ＊シマリス書店｜リアクション

フツウ＊シマリス書店

　紫は２冊の本を腕にかかえながら絵本のコーナーに向かう。
（さすがに猫のコーナーが充実しているわね）
　幼いころに読んだ本を手に取って懐かしい気持ちになった。
（そういえば、あの本の題名なんだったかしら。んん、思い出せない……）
「何かお探しですか、お客様」
　紫が考え事をしているのに気が付いた天吏が声をかける。
「本の題名が思い出せなくて困っていたの。十二支から仲間外れにされた猫の話よ」
「さようでございますか。……十二支の由来に関する話を絵本にまとめたものですとこちらでございます」
　天吏が落ち着いた動作で児童書のコーナーに向かい、目当ての本を紫に手渡す。
「ありがとう。あら……このお話、私が昔読んだものと内容が違うみたい」
「さようでございますか。どの点が異なりますか」
「昔読んだものではお釈迦様が動物たちを集めた気がするけど、この本では神様になっているわ。間違えて覚えていたみたい」
　天吏がまつげを伏せる。
「……十二支についてですが、動物を集めた人物、動物を集めた日付については諸説ございます……。お客様の記憶は正しいかと思われます」
「まあ、そうだったの。店員さんは物知りなのね」
「いえ……。ちなみに、ブルガリアでは寅が猫で、タイやベトナムでは卯が猫になっているそうです」
「まあ！　国によっては猫は仲間はずれじゃなかったのね」
「すべて、こちらの本に書いてありました」
　天吏が『十二支の不思議　～幻の十三番目は猫じゃない～』をスッと取り出す。読みやすそうな新書であった。
「息抜きに丁度良さそう。その本も貰っていくわ」
「かしこまりました……。それではレジにご案内いたします」
　天吏は意外と商売上手であった。

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