フツウ＊シマリス書店｜リアクション

フツウ＊シマリス書店

　スプリングコートを羽織った桜月がシーサイドタウンを歩いている。茜色に染まる街の中、日傘をさして物憂げな表情で空を見ていた。
　冷たい風が吹いてフリルの着いたスカートが揺れる。
「今日も空は綺麗だ」
　芸術家特有の感覚で、月は何かをつかんだようだ。
　この感覚が消える前にと月はシマリス書店に向かった。芸術関係のフロアに向かうと小山内海がいたので声をかける。
「こんにちは、小山内さん。画集を見ているの？」
『こんにちは。うん、色がきれい』
　海が画集のページを指さす。淡い色で描かれた外国の風景が広がっていた。
「本当だ。繊細で綺麗な絵だね。……この夕焼けの色、とても好きだな」
『おてごろ』
　値段の書かれている部分を指さして海が軽く微笑む。どうやら、海は買うことを決めているらしい。それなりに長い付き合いなので、言葉が少なくても察することができた。
『そっちは？』
「日没が綺麗な瞬間があってね。あの美しさを形にしたくてヒントを探しに来たんだ。服や装飾品にできないかな、って」
　絵や彫刻品の本を眺めるが何かが違う。風景画や写真集も手に取るがしっくり来ない。
（つきちゃん、いい本が見つからないのかな？　……あ）
　海は何かに気付いた様子で芸術関連のフロアを離れ、月詠を連れてトコトコ戻ってきた。

「私が来た！！」
　鹿撃ち帽のツバに指を添えて月詠が不敵に笑う。

「今日の君と一緒にいると殺人事件に遭遇しそうだ」
『つくよみちゃん、たのしそう』
「先ほど、依頼を１件こなしてきたところさ。海から、月が悩んでいると聞いてやってきた」
　月詠が腕組みをして、月が選んだ資料の山……衣類や宝飾品の歴史、レースの図案、ファッション雑誌など……をじっと見つめて、指をぱちぃんと鳴らした。
「悩みを当てよう。月、君は衣服のデザインを考えているところだ！」
（今日のつくよみちゃんはテンションが高いなあ）
　ビシリと月詠に人差し指を向けられて、月が呆れた口調で
「まあ、そうだが。人の美しさを描き出すための資料を探して――」
　返事の最後で言い淀む。
（いや、人に限る必要はないか。動物用の服も面白いかも。裁縫のコーナーに行けば動物用のものもありそうだな）
　急に視界が開けた気がした。
「不思議なことに、探偵のおかげで悩みがひとつ解決したみたいだ」
　月が柔らかく微笑んで見せると、海と月詠も笑顔になった。
　その後、月詠はコートのすそをバサバサさせて帰っていき、海は小説を探しに別のフロアに移動した。
（……いけない。思うがままに買っていたら持ちきれなくなった）
　積み上げられた本の山は寮に配達してもらうことに決める。
（今日はにぎやかだったな）

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