ご利益のある霊験あらたかなアルパカさん｜リアクション

ご利益のある霊験あらたかなアルパカさん

　　【おうちに帰ろう】

　あちこちを散々歩き回り、たまに時速４０kmで走ったりと元気に動き回った結果、アルパカのフーちゃんの動きが、最初に遭遇した時に比べて、かなりまったりしたものになってきた。
　「フーちゃん、そろそろお家へ帰りましょうか」
　アルパカ仮面こと、薄野五月が進言する。
　しかし、フーちゃんはそちらを向いて首を傾げるに留まった。

　五月は、何とかコミュニケーションを図ろうと、手を動物園の方向へ向けてみたのに始まり、両手を手旗信号のように動かしたりと気合で何とかしようとするが、やはり言葉の有無の壁は限りなく高く、これが中々上手くいかない。

　「それなら真央ちゃんに任せるのだ！」
　一緒に歩きつつアルパカのフーちゃんをモフモフしていた後木真央は、バッグの中から動物園の草とデジカメを取り出した。
　「ああ、真央。もし良かったら、こちらも用意してきたこの草も一緒にあげてやってくれ。せっかくのフーちゃんの為の餌だしな」
　「分かったのだっ」
　真央は八神修から草を引き受け、フーちゃんに語りかける。

　「ところでフーちゃんところでお腹すいてないのだ？　おじさん達からフーちゃんの好物貰ってきたのだどうぞなのだ」
　真央がささっと草を差し出すと、フーちゃんは幸せオーラを出して餌を美味しそうに食べている。

＜現在のアルパカさんの神レベル＞

全身発光度：Ｌｖ５→２
神々しさ：Ｌｖ５→２
毛を触った時のご利益度：Ｌｖ５→２
遭遇時、頭部からの後光：Ｌｖ５→２

　「そういえば……先程に比べて、フーちゃんの発光とか色んなものが落ちているような気が……？」
　綾辻綾花が首を傾げてフーちゃんを見やれば、
　「……神魂が消えかかっているのかも知れない。光るアルパカの問題もこれで解決だな」
　御剣刀が、やっと肩の荷を降ろすように一息をつく。……もうこの服は臭いが酷くて着られないが……と僅かに気を落としはしたが。
　
　そんな刀の心情も知らず草をもしゃもしゃしていたフーちゃんに、真央が昼間にデジカメの録画モードで撮った飼育員さんの姿を見せた。
　「おじさん達からフーちゃんへのメッセージなのだ」
　喋っている内容を理解したのかは分からない。しかし、草をもしゃもしゃしていたフーちゃんの動きは確かに止まり、その動画に釘付けになっていた。

　その背中をぽふぽふと撫でながら、真央は今になってやっと「ご利益」について思い出していた。
　その「ご利益」が消える前に、真央はモフモフを堪能しつつも思案した。

　「フーちゃんを見たい人はいっぱいいるのだ困ったのだ……
　フーちゃんのご利益がフーちゃんにもあって、フーちゃんが無事おうちに帰れますようになのだ～」

　そうすると、不思議な事に動画を見終えたフーちゃんは、自らの足を動物園の方へと向けて歩き始めた。
　「おおっ、これが『ご利益』！？　これなら、強制しなくてもフーちゃん動物園に帰れるのだっ！」

　皆でフーちゃんの後をついていくように、歩いていく。
　そして、動物園の入り口でコールをすると、何人かが昼間に会った飼育員が出てきた。
　憔悴しきった顔がフーちゃんの顔を見ると満面の笑顔を浮かべるが、すぐにそれまで心配し切っていた分なのか、怒ったような顔つきへと変わる。
　「こら、だめじゃないか！　フーちゃん、皆がどれだけ心配したかと──」
　「ま、待ってくださいっ。フーちゃんにも悪気があった訳じゃないんです！」
　綾花が慌てて庇い、皆が同意する。
　夜の行動を見ている限り、フーちゃんは本当に散歩をしたかっただけに違いない。

　フーちゃんを飼育員に引き渡して、一声掛けたり、名残惜しそうに撫で回したり首にぎゅっと抱きついたりと、皆がそれぞれの形でお別れの挨拶をする。

＜現在のアルパカさんの神レベル＞

全身発光度：Ｌｖ２→０
神々しさ：Ｌｖ２→０
毛を触った時のご利益度：Ｌｖ２→０
遭遇時、頭部からの後光：Ｌｖ２→０

　ふわりと、最後のひとしずくのように。
　蛍のように小さい神魂が空間に溶けて消えていった。

　これで、明日からは普通のアルパカのフーちゃんが見られる事だろう。

　──こうして、光るアルパカ騒動は、幕を閉じたのである──

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