敬老の日に｜リアクション

敬老の日に

～再び、浅葱眼鏡店～

（我ながら呆れる運の悪さだ。いつのまにか元に戻ったは良いけどあれはなんだったんだ？）
　若者に戻った血陣遵は、もう帰っていいからといわれ、ふらふらと会場を後にした。
　そして眼鏡店を紹介されたことを思い出した。
　安物のメガネとはいえ周りが見えないとまた怪我をするし、家より近いし歩いている内にまた転びそうだし気をつけて行ってみようか。
　しかし途中で急に石が飛んできてぶつかり、さらにケガを増やしてしまったのだった。
「ここが浅葱眼鏡店……すいませんメガネ直してもらいたいんですが……」
　通りかかった少年に心配されつつ場所を聞き、ようやくたどり着くことができた。

「……いらっしゃいま………だ、大丈夫ですか……？」
　あやめは、やってきた客の様子に目を見張った。
　酷く満身創痍。眼鏡は傾いていて頭痛にでもなってしまいそうだ。
「この怪我は、転んだりしただけだから問題ないです。眼鏡を見てください」
　店の主とはいえあやめは人見知りで、慣れない相手だとぼそぼそとした話し方しかできない。
　今回の場合、遵も負けないくらいネガティブで内向的だったが。
「お預かりしますね……」
　ためつすがめつして見ると、やはりというか当然というべきか、酷く湾曲して傷ついている細い金属フレーム。
　クリングス……メガネが鼻にくっつく部分も、潰れて左右の高さが違う。
（どうやら転んだりするのも今回だけではないのでしょうか）
　歪みを曲げ直した跡も見受けられる。
（レンズには傷が少ないのが救いでしょうか……もちろん、綺麗に直したいとは思うのですが）
「……すみません……見たところ、フレームの湾曲が酷いようです。大変申し訳ありませんが、歪みを直す為に曲げ伸ばす課程で、金属疲労で折れてしまう可能性も……あります。その場合の保証は出来かねますが、よろしいでしょうか……」
「やっぱり無理ですか……わかりました、じゃあ諦めて」
　遵がそう言いかけたとき、戸口から張りのある声がした。
「失礼、お預かりいたしますよ。なぁに心配はいりません」
「……お爺様」

　敬老会に招待されていた浅葱甚三郎（７８）だが、会場を素通りして散歩から戻ってきた。
（まぁ敬老会に行っても良かったんだが、あーいうので出しものするおなごは大抵眼鏡外しちまうからなぁ。もったいねぇ）
　埼玉の農家の出だが、眼鏡をかけた女子と猫が何より好きで、わざわざ寝子島にやってきて眼鏡屋を始めた。
　息子にスルーされた店を孫が継いでくれたので一安心し、今はのんきに隠居暮らしをしている。
（店の方でも覗くかな。眼鏡屋はあやめに継がせたけども、古くからのお客様もいらっしゃるし、たまにゃ顔出さねえと）

　そうしてあやめが接客しているところに帰ってきた甚三郎は、少し前から黙って様子を見ていたのだ。
（酷く傷だらけの子だねぇ。眼鏡もまた満身創痍じゃねえか）
「治せる？　それじゃあお願いします」
　甚三郎は遵に向かい笑みを浮かべる。強面ながら、お客を信頼させることのできる笑顔だった。
　そしてあやめの脇に立ち、眼鏡を受け取ると孫に言う。
「こっちゃ専門家だぞ。できるできねえじゃねえ。お客様の眼鏡の為だろうが。やるんだよ、ちょちょいっとな」

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