敬老の日に｜リアクション

敬老の日に

～敬老ボランティアたち～

　時間はしばらく遡る。
　
　敬老会のボランティアスタッフたちは早めに集合し、打ち合わせや準備に追われていた。
　祖父母が参加する宮祀智瑜もその一人である。
「美味しくできたんで、野菜チップスも置かせてもらっていいですか」　
　家の青果店の商品を材料に作った、手作りの野菜チップスを係の人の許可を得て並べる。
　出し物の衣装や小道具なども揃えて置いたり。
「暖房を入れるほど寒くはないようですね。窓を開けましょうか」
　あちこちに気配りし、手早く作業を進める。
　気の早いお年寄りはずいぶん早くからやってきている。
「あ、こんにちは、照喜さん」
　スキンヘッドの老人梅川照喜を見つけて、智瑜は声をかけた。
「おお智瑜ちゃん、今日も可愛いね」
　旧市街の漬物屋『うめ河』の主人である梅川は、智瑜に梅干しをおまけしてくれたり会うと話しかけてくれたりする優しいお爺ちゃんだ。
（この後買いに寄ろうかな）
　と思う智瑜だった。
　お爺ちゃんやお婆ちゃんに優しく声をかけて椅子まで案内したり、声を大きくして話したり。
　ちょっと重いカラオケの機材も、キャスターに乗っていたので一人で運ぶことができた。
　マイクやテーブルを運び終えて、担当者に尋ねる。
「立って話すのは疲れるので椅子はいりますね。ところで司会はどなたがされるのですか？」
「それが実は……お願いしていた人が風邪で来られなくなってしまったんですよ」
　担当の係員の若い男性が困ったように言う。
「まあ。おられないなら私がやりましょうか。プログラム通りに進行すればいいんですよね」
「本当ですか。ありがとうございます」
　さっそくプログラムを渡され、打ち合わせが始まった。

　赤猫リュックを背負った後木真央もボランティアとしてやってきた。
「敬老の日にうち帰らない分ここで頑張って敬老するのだ！」
　あたりを見回し、
「修ちゃん！　こんにちはなのだ、今日はそっちもボランティアなのだ？」
　八神修に声をかけた。
「ああ。地域活動の一環で参加させてもらった。竹松さんと一緒にマジックをするんだ」
　竹松梅は、真央も知っている友人の親戚にあたる９０歳のおばあさんだ。
「すごいのだ！　楽しみにしてるのだ！　真央ちゃん撮影担当だから、ばっちりカメラに収めるのだ」
「よろしく頼むよ」
「ところで……この島のおじぃおばぁはお上品なのだ、漁民少ないのだ？」
　真央は首を傾げる。
「どうだろうな。商店主の人が多いかもしれない。現役なら漁に出ているだろうしな」
「そうなのだ、小型船の漁民は死ぬ寸前まで自分の船に乗ってる人が多くて、６０、７０は洟垂れ小僧なのだ。血気盛んな年寄りばかり見ていたので少々カルチャーショックなのだ」
「あ、竹松さん」
　噂をすれば、腰を曲げた老婆が現れた。
「こんにちは、今日はよろしくお頼み申しますわ。こないだ打合せした通りにやな。……えー、山本さんやったか？」
「八神です。八神、修。こちらこそよろしくお願いします」
「ああ、そやったな、かんにんな」
「元気なお年寄りもいるけどやっぱり少ないのだ。敬老が本当に敬老なことに驚きなのだ」
　真央はその場を離れ、お弁当や飲み物の配布を始めた。
　修は梅と話しながら思う。
（竹松さんは可愛らしい性格だな。俺は祖父母との思い出が殆ど無いが、なんだか懐かしくて嬉しい）

「やあ先生、今日もお綺麗ですな」
　寝子島総合病院の内科医、深倉理紗子は、梅川に声をかけられた。
「こんにちは……」
「ボランティアですか？　大変ですなあ。だがおかげで目の保養ができますよ。あとでわしと一曲歌ってくださらんか」
　押しの強い梅川に曖昧な笑みを浮かべる理紗子。
　この漬物屋の御主人のことは研修医時代から知っている。７５才とは思えない鍛え上げられた筋肉の持ち主で、健康マニアだ。
　ご高齢の方が多いので、万が一に備えて待機を頼まれた理紗子だが。
　最近のお年寄りは下手するとその辺の若者より元気だしちゃっかりしてるし、若者のはずの自分は……圧倒されてるんじゃないかと思ったりする。

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