半分コドモ、半分オトナ｜リアクション

半分コドモ、半分オトナ

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朝の澄み切った空気の中、しかし校門に立つ杉村校長の表情は険しいものだった。
というか、額のあたりに血管がピキピキ浮かんでいた。
というのも、きちんと挨拶をしない生徒たちのためである。
さて、このままだといつ杉村校長の血管が切れるか――という時だ。
秋晴れの空に、お手本のような挨拶が聞こえてきた。
「おはようございます。メガネすてきですね！」
明るく元気よく、気持ちのよい天気に気持ちのよい挨拶。
「お、おはようざます……」
一瞬言葉を失った校長が返した頃には、先ほどの挨拶の主である薄野九月は軽快に歩みを進めていた。
「おはよー！」
クラスメイトでも知らない人でも、目が合ったりすれ違ったりしたら、元気よく挨拶をしていく。
挨拶と朝ごはんは、一日の元気の源！
九月のおじいちゃんも、そう言っていた。

そして。
九月のあとに続くように、元気で明るい挨拶の声がまた響いた。
「おはようございます、校長先生！」
ぬっ、と細長い影が杉村校長の顔に差す。
何事かと見上げれば、矢萩槇が特徴的な黒帽子を取った姿で無邪気な笑顔を向けていた。
校長はまた一瞬言葉を失い――かけたようだが、二回目だからかなんとかこらえたようだ。
「おはようざます」
メガネを右手でくいっ、とやる杉村校長。
槇が帽子を持っていない方の手をささっと動かせば、ぽんっとどこからともなく現れたのは一輪の薔薇。
彼女お得意の、手品の要領だ。
「今日も一日よろしくお願いします！」
変わらず満面の無邪気な笑みを浮かべたまま、すすっとソレを校長にプレゼント。
今度こそまた一瞬言葉を失った校長をしり目に、校舎へと足を進める。
すると彼女の目に留まったのは、つい先ほど登校してきたばかりの青木慎之介である。
自転車を引いている慎之介の後ろから、槇はどーんとぶつかるように抱きしめた。
「慎之介君、おはよ～♪」
「グッモーニンっす、今日も元気っすねセンパイ！」
年頃の男子には何かと刺激が強いような気がするが、動じていないのは流石さわやかイケメンな慎之介というところか。
さて、槇のこのスキンシップと挨拶は慎之介にだけでは終わらない。
「おはよー、ゆりちゃん♪」
続いて犠牲者、じゃなかった挨拶されたのは三宅ゆり。
慎之介の時と同じように、ぶつかるように抱きしめる。
今度は正面から。すると身長差のために、何にとは言わないが顔が埋もれる格好になる。
「おは、ってちょ、くるしいから！　ちょっとあんたこらきーてんの！？」
挨拶兼スキンシップに夢中な槇には、残念ながらゆりの抗議の声は届いていなかった。
もがもがもがいているゆりと、彼女を抱きしめている槇。
その様子は何も知らない人から見ると、どうみても「生徒を襲う巨女の図」だ。
さらに巨女の進撃はまだ止まらない……！
「時尾ちゃんもおはよ～、今日もかわいいね♪」
鉄時尾にも抱きついて、綺麗な黒髪を無邪気に愛でる槇。
「や、矢萩先輩。おはようございます……」
もともと人見知りの激しいタチな時尾は、無邪気な槇のスキンシップにやや気圧され気味だ。
だけども抵抗したりはしないあたり、多分嫌ではないのだろう。
――そして今朝最後の被害者、じゃなかったターゲットになったのは神助天佑だった。
「矢萩先輩っ！？　お、おはようございます……！」
「天佑君おはよ～♪」
むぎゅー、っと。
天祐の顔が、槇の中学生らしからぬビッグな胸に埋もれる。
思春期真っ盛りでムッツリな少年にとっては、大変よろしくない状況である。
やってる槇の方は純真なため、そういう自覚が一切ないのが困りものだ。

――そんな感じで毎朝繰り広げられる、この挨拶デスマーチ。
それが「六尺様」だの「ビッグ矢萩」だのという不名誉なあだなに繋がっているというのは、果たして槇は知ってか知らずか。

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