帰って下さい冬将軍！｜リアクション

帰って下さい冬将軍！

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　寝子島神社に人影はない。宮祀智瑜と冬将軍は、賽銭箱の前に二人で並んでいた。
「……まずは、二回頭を下げるんです。そうしたら、二回拍手をして、お賽銭を箱の中に入れます。ご縁がありますように、って五円玉を入れたりするんです」
　神社での参拝の作法を冬将軍に教えつつ、智瑜は鈴緒を手に取った。小さく、鈴の音がする。
「そうしたらこれを引っ張って鈴を鳴らして、お願い事をします。終わったら一度頭を下げます。……こんな感じで、伝わりましたか？」
　自分の説明で分かってもらえただろうかと、智瑜は不安げに冬将軍を見つめる。冬将軍は一度頷いて、ポケットから五円玉を取り出した。
「ありがとう。じゃあ早速、教えてもらったことを実践するとしよう」
　冬将軍は智瑜に言われた通り、頭を下げて二度拍手を打つ。智瑜も同じように参拝を始めた。
（――冬将軍さんが、無事に旅出来ますように――）
　目を開けると、智瑜の方を窺っている冬将軍と目が合って智瑜は思わず微笑んだ。
「冬将軍さんは、何をお願いしたんですか？」
「儂は、無事に皆が冬を過ごせるようにと願ったよ。お嬢さんは？」
「私は、冬将軍さんの旅の無事をお祈りしました。今まで、どんなところに行ったんですか？　私はこの島からあまり出ないので、教えて下さい」
　神社を出た二人に、寒風が吹き付ける。智瑜は白い息を吐きながら冬将軍を見上げ、旅の話を熱心に聞いていた。
　北極から始まり、ロシア、イギリス、カナダ、オーストラリア……様々な国と、そこに生きる人々の話は、智瑜にとって新鮮なものだった。
「……あ、そうだ。寒いから少し体を暖めていきませんか？　ちょっと待ってて下さいね」
　薄暗い空に輝くコンビニの看板を見て、智瑜が立ち止まる。買い物を済ませ、肉まんと缶コーヒーを片手に小走りで冬将軍に駆け寄った。
「どうぞ、半分こです。肉まん、大丈夫ですか？」
「ああ、肉は好きだよ。ありがとう、お嬢さん」
　冬将軍が微笑むと、目尻に皺が刻まれる。智瑜も柔らかく微笑みながら、二つに割った肉まんを口に運んだ。
「……あっ、そうだ！　サンタさんが来てると思っちゃったから、うちにあったサンタの衣装を持ってきてたんでした。……着てみますか？　絶対に似合うと思うんです！」
　肉まんを食べ終え、体が暖まったところで智瑜が鞄の中から衣装を取り出す。冬将軍は真っ赤なそれを受け取り、衣服の上から身につけてみせた。
「やっぱり、似合いますね。そうしてるとサンタさんみたいです」
「はは……残念ながら、プレゼントは持っていないがね。今度来る時には、お嬢さんにプレゼントを持ってくると約束しよう」
「本当ですか？　楽しみにしてますね」
　真っ赤な衣装に、白い髭。まるで本物のサンタクロースではないかと見まごう姿をした冬将軍は、豊かな腹を揺らして笑う。
　その仕草がサンタクロースのようで、智瑜は瞳を輝かせた。九月という時期にやって来たサンタクロースの姿に、クリスマスよりも前にやって来てしまったサンタクロースを歌った歌を思い出しながら。

「それでは、名残惜しいが……この衣装はお返しするよ」
　智瑜の家、宮祀青果店の前。冬将軍は衣装を脱ぎ、智瑜に差し出した。暗くなる前にと、智瑜を送ってきたのだった。
「はい、今日は、ありがとうございました。……また、来てくれますか？」
「もちろんだとも」
「じゃあ、少し早いですが、私からのプレゼントです」
「おや……ありがとう、お嬢さん。大切にするよ」
　智瑜が差し出した寝子島神社のお守りを、大事そうに懐へ入れる。智瑜は一歩踏み出すと、冬将軍をぎゅっと抱きしめた。妙な安心感のある腹部につい、抱きついてしまった。
「約束ですよ、また来るって。まだ、紹介したい場所がたくさんあるんです」
　冬将軍を見上げて智瑜が小指を差し出すと、冬将軍もそれに応えるため、自分の小指を差し出した。

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