【体育祭】部活対抗リレー　―つないで、魅せて、走りぬけ―｜リアクション

【体育祭】部活対抗リレー　―つないで、魅せて、走りぬけ―

　こちらは演劇部。彼女たちはというと……全員、思い思いの衣装に身を包んでいる。そんな彼女たちのバトンはなんと、鬘（金髪縦巻きロール）である。
「走る事は得意なんデス！　二番手、勤めさせて頂きマス！」
　とふわりとしたお嬢様な魔法少女姿のアニエス・クロッツ。「細かいルールはわかりまセンが」と最初に言っている気がするが気のせいだ！　多分気のせいだ！
「皆、がんばれ。僕も、がんばるっ」
　小柄な身体に豪奢な桃色のドレス風な衣装を纏わせた恵御納夏朝もやる気にみちた顔でそう言った。傍らでは凛々しい女戦士の姿をした西川夕莉が鬘を被ろうとしていた。演劇部は彼女が第１走者のようだ。そんな彼女は軍服風な衣装に肩甲や胸当て、篭手、脛あてを装備している。
「記録より、記憶に残るように。それが演劇部らしい目標ね」
「そうそう。目立ったもん勝ちでしょ？　こーいうのは」
　そう答えたのは乗馬服を着こなした桃川圭花。後ろが二股に分かれた燕尾服風の上着（ダブルボタン）にぱりっ、とした白いシャツ。太腿の部分にふくらみがある乗馬用ズボンとスラリとしたラインが特徴のブーツ、と中世ヨーロッパを思わせる姿だ。
「それでは、いきましょう！」
　夕莉の言葉で、全員にスイッチが入る。それぞれの役になりきると彼女たちはステージへあがるべく背筋を伸ばし、集合場所へ集った。

　そして、寝子島高校ホスト部（以下、ホスト部と表記）。なにやら台が用意されたりスワロフスキーや江戸切子など高級そうなグラスが準備されたりと何かあるようだがさておき、メンバーの前ではスーツに着替えを済ませた相原まゆの姿が。そう！　ホスト部のバトンは彼女なのである。因みに体育祭実行委員の面々は届出を貰った際、「まさか２つの部で人間をバトンにするとは」といわれたとか何とか。因みにボクシング部の場合は顧問で予想外だったが、ホスト部の場合はある程度予測していたらしい。
「……言っておくけど、来年はしないからね」
　恥ずかしそうなまゆに、スーツ姿のホスト部メンバーは優しくもそれぞれの魅力たっぷりなスマイルで答えていた。
「先生、これもお願いします」
　と八十八旗信彦が手渡したのは「ド」のつく高級シャンパンの瓶（中身：炭酸飲料）である。まゆは訳が分からず首をかしげる。
「ど、どういう事？　中身はジュースなのよね？」
「まぁ、それは後でのお楽しみ、という事にしておいてね」
　とやさしく言ってウインクしたのは早坂恩。ゆるく編んだ１本の三つ編みを揺らして笑いかければまゆの頬がうっすらと赤くなる。
「こうやって日の目の当たる舞台で目立っておかないとね。それに、最終レースだからこそ、より盛り上げたいよ」
　と八城昌也が上着を正して言う。黒いスーツと襟を開いた赤いシャツは彼に似合っており、なかなか様になっている。因みに恩は白シャツと灰色のスーツ（ベスト着用。上着は寒くなったら着る予定）、信彦は白いスーツに黒シャツで、全員が革靴でびしっ、ときめている。桐野正也もシックな色合のスーツを着こなしていた。が、その服装と革靴を見ながらなにやら思案していた。
「スーツと革靴ってトコがいつもと違って走りにくいけど、他の部活にも負けないぜっ」
＜それにこれで陸上部の後輩達にもかっこいいとこ見せれるチャンスだしなぁ……＞
　ふと、正也のろっこん『思ったー』が発動し、ふんわりと吹き出しが浮かび上がる。まゆの視界に入らない位置だったのでよかったものの「ちょ、今のなし！」と慌てて消す正也。そんな姿に思わず昌也がくすっ、と笑うと瓶の中身についてまゆに説明する。と、彼女は「えっ？！」と目を見開いた。
「えーっと、用意している物とかかわりがあるのは良く分かったけど、よく許可が下りたわね……」
「ホスト部の部活動紹介の一環と認められてほっとしたわ」
　恩が微笑んで肯いていると理事長が本部席から笑って手を振っている。信彦はクールな笑みを浮かべ、ホスト部のメンバーにこう言った。
「それじゃ、いこうか」
　ちなみに。何故まゆがこの瓶を持たされたのかについてはいずれ分かる。察しの良い方ならば既に分かっているかもしれない。