遠足！　小学生、横浜へ｜リアクション

遠足！　小学生、横浜へ

◎でかい！　やまと丸

　４年生の漁良太は、わくわくしていた。
「帆船やまと丸へ行ってくるぜ！　うおーでかそう！　楽しそう！」
　良太は漁師の息子だ。祖父と父の漁師の仕事に興味津々で、よく手伝おうとして邪魔して怒られる。
「オレんちの船よりもすっげえでかくて格好いい船に乗れるみたいだから、どんなところかみてくるぜー！」
　言うが早いか、班の誰よりも早くダッシュした。
「うわー！」
　大きいだけでなく、美しい。
　白い帆を広げたその美しい姿からやまと丸は、「太平洋の白鳥」や「海の貴婦人」などと呼ばれているのだ。
「オレもいつかこういうのを動かしてみたいなぁ……こういう船で働く人達ってどうやってなれるんだろうなぁ……？　きっと頭の良いエリートっていう奴しか乗れないんだろうな。きっとそうだ」
　うんうん、と一人頷いていると、やっと班のみんなが追いついてきた。
「これ見ながらおやつとかお弁当とか食べたいよな。たんのうしたいぜ！」
　良太の言葉に、みんなが頷いた。

「でかいなー！　中の操縦室とかもみれるのかな！　すっげぇみてみたい！」
　やまと丸は、甲板だけでなく船内を見学することもできる。
　船に乗り込んだ良太は、初めて見るマストや豪華な船室に目を輝かせた。
「でも触っちゃダメなんだろうなーちぇっ。触ってみたいけどなぁ」
　機関室を見ながら指をくわえる良太。
　だが、反対側の甲板に出てみると。
「うおお！」
　目の前に大きな舵輪があった。
「これで、船を動かすんだ！」
　この綺麗で巨大な船を、舵輪ひとつで思いのまま動かす……
　自分が舵をとっている姿を思い浮かべて、良太は感激せずにはいられなかった。

「あれ？」
　そのまま海に目をやった良太は、甲板で海を見つめるショートボブの少女に気づいた。
「ここから船でどのぐらいかかるのかな」
　少女……東海道は海を見ながらつぶやいていた。
　６年生だが２学期に転校してきた道は、寝子小では初めての遠足だ。横浜の事はあまりよく知らないので楽しみだった。
「どのぐらいって、どこまでいくんだ？」
　自分より上級生だろうなと思いながら、良太は声をかけた。
　ちょっと驚いた道だが、相手が下級生と見てお姉さんっぽく対応する。
「ん……愛知よ。そこから転校してきたから、どのくらい離れてるのかなって思ったの」
「ふうん……船、興味あんの？」
　愛知のことはよくわからなかったので、結局良太の選んだ話題はそれだった。
「はとば博物館の、帆船シミュレーターはやってみたいかな。船の操縦が体験できるんだって」
「何、そんなのあんのか？！」
　途端に身を乗り出す良太。
「これから午後行くのよ。班ではいかないの？」
「やまと丸に夢中でよく読んでなかったぜ……そういや、午後のコースに入ってた気がする！」
　わかりやすい良太の反応に、道はくすっ、と笑った。
　子供っぽい男子は苦手だけど、この船好き男子はなんとなく嫌ではない気がした。
「お姉さんもやまと丸の広場で弁当食べるのか？」
「ううん、私たちはニャンドマークタワーのほうで食べることになってるの。じゃあね」
　道は全体行動なので、いくらか早足で回ることになる。　