＜宝石人形＞蛍石フローティア｜リアクション

＜宝石人形＞蛍石フローティア

　　【人形と情報】

　散歩に出ていた桜庭円は遠くに人のわめき声を聞いた。
　肩に乗せていた猫の「にゃーくん」も、不思議そうにその音を聞いている。
　しばらく歩けば、そのお店を見つけるのは容易かった。
　「──と言う訳なのよ！　このままじゃお店が……！」
　話を聞けば、どうやらお店リニューアルをした際に、心機一転にと「フローティア」という高級すぎる上に扱いに困る人形を買い付けた為に、ただでさえ爪に火を灯す金銭事情がついに火の車となってしまったという話だった。

　「人形は紫外線に弱いけど……人形は何年お店に飾られていたの？　人の手に渡った事はありますか？」
　「そうね、うちが一番に買い付けたから、他の人の手には渡っていた事はないわね。
　お店も直射日光が入るような作りにはしていないけれども、作り手から渡された時に、あまりに念を押すように言われたから、怖くなっちゃって写真だけ撮ってずっと倉庫に──」

　円はそれを聞いて、すぐにこれも神魂現象とあたりをつけた。
　そして、椅子と机のスペースを借り、帳簿と携帯を片手に、お店の内情を調べ始めた。

　そもそも、買い付けた人形が安定して売れていればこのような現象は起こらなかったかも知れない。円は順番に調べていく。

　店の知名度：
　まず、店名を巨大検索サーチに掛けても上位に出てこない。
　むしろ１ページ目にない。

　口コミの評判：
　「最初、何屋か分からなかった。
　展示人形の数が少ない。最初人形は扱って無いのかと思った」

　ＨＰが有るか無いか：
　検索の２番目に出てきた。ＨＰは一応ある。
　しかし、素人のＨＴＭＬ打ちのような作り。フローティアの写真部分は「now printing」の文字画像のみ。

　「……これじゃ、人が来ない訳だよね」
　円は大きくため息をついた。こんな店でしかも倉庫に閉じ込められては、それは人形に限らず全てのモノが逃げ出したくなるに違いない。

　「店の問題は後にしても……まずは、人形を探さなきゃいけない、か」
　最後にフローティアの外見を聞き出して、ねこったーに投稿する。
　ねこったーでは、「フローティア」で検索を掛けたところ、既に同じ事を考えていた人がいたのか、他にも既にいくつかの投稿が見つかった。
　「あ、アリーセちゃんの書き込みがある！」
　顔を知る黒依アリーセの書き込みによると、どうやらフローティアはエノコロ岬に向かっているらしい。
　円の脳裏によぎったのは、倉庫内での地図と夕日のポスターだった。

　情報は、殆どリアルタイムで動くねこったーが頼りで落ち着かないが、円はアリーセのねこったーにコメントを返すと、にゃーくんを伴って外へと飛び出していった。