たんぽぽのラプソディ｜リアクション

たんぽぽのラプソディ

●綿毛の旅立ち、巡る季節●

　人気のない、落神神社。
　境内まで上って来た刀は早速、準備運動と柔軟体操で身体を解して、木刀を取り出した。
　雑草の取り除かれた地面にしっかりと足を張り、汗を流しながら黙々と振り被っては振り下ろす。
　速く、速く、ただひたすらに速く……剣捌きに速さを求め、意識を強めていくと、振り下ろされる剣先が鋭くなっていくような、自らの精神も研ぎ澄まされていくような感覚が湧き上がってきた。
（……相手の刃が俺に届く前に、俺が斬れば良い）
　刃のような鋭さを増していく瞳に、対峙する人の影を浮かべながら。
　刀の素振りは、日暮れまで続きそうだ。

　花畑では、相変わらずのんびりした空気が流れている。
「女の子の憧れ、ウェディングドレス……」
「には見えない気がするぞ～」
　アリーセはちょっとうきうきした様子で美弥子の服を白いもこもこだらけにしたものの、からんの正直な突っ込みに肩を落とす。
「えっ、どうなってるの？」
「ごめんなさい……どう見ても雪だるま……」
「えー！」
　美弥子がじたじたする度に、綿毛がぽわぽわと散っていく。
　綿毛を振るい落とした美弥子に笑って、寝太郎は揺れるタンポポの綿帽子たちの中にしゃがんだ。
「大変だな～って思う事もあるけど、こんな風に神様の不思議に出会えるのは、なんだか素敵な事だよね」
「そうかも。貴重な体験、してるのよね」
　同意を示した美弥子に向け、凛もうんうんと頷く。
「こんな面白い経験、そうそう出来るもんじゃないからね。
　ハプニングも含めて、この不思議な力を丸ごと楽しんじゃえば良いんじゃないかなっ♪」
「……そうだね！」
　日暮れが近くなって気温が下がり始めたせいだろうか。
　笑い合う少女たちの傍らで、寝太郎は……。
「へ、へ、へ……へっくしょん！」

　ぶわわぶわわわぶわわわぶわわわわわわわ！

「わぁ！」
　少女たちは目を丸くした。
　寝太郎の周りでくしゃみの息が掛かった綿毛が膨らみまくって、白いもこもこした小山が出来る。
「あわわ……」
　慌てて新しい袋を出し、寝太郎はふわもこ綿毛に被せていった。
　でも、全部は流石に回収し切れない。
　そのうち吹いてきた風が、まだ沢山残っている綿毛をふわりと浮き上がらせた。
　増殖しなかった綿帽子もゆらゆら揺れて、自分たちの種を結んだ綿毛を手放していく。
　あっという間に、高い高い空の彼方へと旅立っていく。
　――来年は、何処で花を咲かせるのかな？
　空を仰いだ生徒たちは、飛んでいく綿毛を見送った。
「…………フン」
　裏山の何処かで、なんとか無事だった燻製を食みながら、龍八も空へと旅立つ綿毛の一端を眺めていた。

　ふわふわ、ふわふわ。
　沢山に見えた綿毛は、数日と経たずに随分嵩を減らしてしまう。
　それでもきっと、何処かの大地に舞い降りて、また黄色い可愛らしい花を咲かせるだろう。
　小さな命の旅は、始まったばかりだ。
　そして――廻り訪れた春と別れを告げて、寝子島は若葉の季節を迎える。

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あとがき

担当マスター：羽月ゆきな
ファンレターはマスターページから！

『たんぽぽのラプソディ』リアクションをお届けしました。
皆さんのアクションによって、予想していた流れを若干変更したり、思わぬ場所を描写する機会もありましたが、ほのぼのと楽しんで頂けましたら幸いです。

羽月が考えていたよりも美弥子に関わったり、サポートに向かって下さった方が多かった為、出番が多くなった感がありますが……頼もしい先輩やお友達のお陰で、美弥子ももれいびとしていっぱしの自覚は持てたのではないかと思います。
今後は、美弥子がキャラクターさんたちの活躍をサポートする機会もあれば、嬉しいですね。

この度はご参加頂き、ありがとうございました！

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