焼きそばパンＤＸをこの手に！｜リアクション

焼きそばパンＤＸをこの手に！

　時間は少し戻る。

　三時間目トイレ休憩中、ただならぬ雰囲気を感じて小倉もなかはひるんでいた。
　異様なオーラの中心は、御剣刀だ。
　剣道の達人である彼。
　ひたすら速度を追求し続ける彼。
　食いしん坊万歳な彼。
　彼が、今回の焼きそばパン争奪戦に参戦するのは明白だった。

　４時間目終了のチャイムを、秒単位で確認。
　鳴る瞬間に席を立って挨拶。
　そのまま開けておいた窓に全力疾走、中庭に飛び降りたあと、確認したルートを最速で駆けぬける……。
　走り抜ける自分の指の先まで、緻密に何度もイメージする。

　休み時間中も、イメージトレーニングと集中を続ける彼に、誰も近寄れない。
　席をガタガタ遠ざける。
　クラスから離れようとする。
　そのまま授業に戻ってこないのもいる。
　それでお説教をくらっているのが納十一で、用事を言いつかっているため争奪戦に参加できない。そんな生徒もいる。
　その半面で、何とかして刀の独走を防がんと、あの手この手をひねり出す生徒もいる。

（そんなにみんな、焼きそばパンが欲しいのかな……）
「違うわね」
　もなかの内心に返事をしたのは、隣のクラスのミステリアスな少女、桃川圭花。

「焼きそばパンについて私が知っている二、三の事柄。
　焼きそばパンのことなら私がよく知ってるわ。ＤＸとかいう代物も、大凡、想像はつく」
「……おいしいんですか？」
　もなかの問いに、圭花はフッと笑いをもらす。
「あのね、あれ、そんな大したもんじゃないのよ。びっくりするほど、普通」
「……じゃあ」
「じゃあ、なんであれを食べるのか、って？」圭花は視線を宙に彷徨わせる。「私が思うにそれは……。
　……あれが、私たちの誇りだからよ」
「誇り……」
　呆然とするクラスメイトを尻目に、飄然とクラスを出ていく圭花。

「私も行くわ。

　……何のためにって、それはもちろん……勝つためよ」

　彼女の背に鳴り響く始業の鐘。戦いを告げる運命の合図のように、それは聞こえた。
といっても、これはトイレ休憩終了の合図で、まだ４時間目は残っている。
　
　あわてて体をひねった塔ヶ崎璃亜が、たまたま置いてあった掃除用具に激突し、たまたま開いていたロッカーの金具に頭をぶつけた。
　鈍いわけではないのだが、ちょっと運が悪い感じだ。

（誇り……）もなかは、圭花の言葉を何度も反芻していた。