焼きそばパンＤＸをこの手に！｜リアクション

焼きそばパンＤＸをこの手に！

　窓を使って飛び降りた一団は、トラップに苦しむ先頭集団に先駆け渡り廊下に突入する。
　猛烈な追い上げを見せる校内組。抜きつ抜かれつのデッドヒート。
　団子状態の中でも、ひときわ目立つのは環、そしてシダを含む、１０組軍団だ。

　五点着地で得た推進力を殺さぬように、環は体を低くして疾走する。
　躰の中に、輝く生命の塊が撥ねとんでいるような、生き生きとした走りだ。
「幼いころからお馬さんにあこがれて走っているからね！　脚には自信があるよ！」
　彼女の走りは、人間というより、高貴な四足獣を思わせる。
　目の前の生徒を、バク宙や前宙でかわしつつ、風を切って環は駆ける。

　大きく体を傾がせ、ほとんど四肢で走っているようなのはシダ。
　彼女の愛するベトナムユニコーン『サオラ』の魂の宿ったような走りだ。
　奇妙なところも、醜悪なところもない。見る者に崇敬の念すら起こさせる、躍動感に満ちた走りだ。
「ひるめしまえ、うんどう、ちょうどいい！」歓喜に満ちてシダは叫ぶ。「ひとの邪魔、いじわる、嫌いだ！　シダ、せいせいどうどう、はしる！」

　そのシダとがっちり手をつないで、連携を取りながら走るのは朝陽と月乃。
　脚力に優れる朝陽は、シダをうまくリードして、月乃を気遣いながら走る。
　遅れたり、はぐれたりしないように。
　月乃は周囲に気遣いながら疾走。ろっこん攻撃も心配だが、それより彼女が『轢いて』しまわないか心配だ。
　風がスカートを煽り、スパッツから伸びる脚があらわになる。
　全員で一丸となる。サッカーで学んだ、単純だが、もっとも強力な戦術。
「この手の特攻はサッカーで慣れてるんだ！」朝陽が吠える。
「私たちは仲間！　一緒に頑張ろうね！」月乃が笑いかける。

　生命力あふれる彼らの走りと、刀は対照的だ。
　確かに早い。だがそれは、何かを犠牲にして、何かをそぎ落として得た速度である……そのような危うさが、彼の走りには在った。
　あらゆる安全装置を外し、ただの走るメカと化したＦ１マシンの様に、悲痛さがみなぎっている。
　音も色も消え去ったモノトーンの荒野を、少年は疾駆する。

「焼きそばパンＤＸ……どんなんだろうな！」若干それに遅れつつも、利平と信彦が駆けぬける。「おばちゃんの道楽ってことは、シェフの気まぐれ的なやつか！」
「意味わかんないぞ、リヘーくん！」
　ダンスミュージックを好む利平は、テンポよくリズミカルに駆けぬける。
　傍らで走る信彦。進路の確認は欠かさない。次のルートは、脳内ですでに点滅している。
　ここまでは無難なルート、だがこの先は……。

　そこをたまたま『家庭科室に洗剤の原液を運搬している』納十一が通りかかった。
　授業サボりの罰として、バケツ一杯の洗剤を運ぶことを命じられたのだ。
　
　突如現れた彼の姿を、視認した時にはすでに遅い。先頭を走る誰がぶつかったのかわからない。
「あっ！」
　バケツは弾き飛ばされ、スローモーションのように回転して、乳白色の中身をあふれさせた。