桜の花の舞うところ｜リアクション

桜の花の舞うところ

○　自分で作るよ!

（部活で走って跳んで、ちょっと疲れて帰ってきたけど……女子寮の方に行くならシャワー浴びてからの方がいいよな）
　陸上部の志波拓郎はシャワーを浴びてから食堂へ向かった。
「秋のサンマ……いいよなサンマ、たのしみ……」
　ちょっとワクワクしていた拓郎だが。
「サンマが無くて味噌汁とごはんだけ……！？」
　眠そうにぼーっとしているが、地味にショックだ。
　柴犬がお預けくらったかのように、ショボーンとしてしまう拓郎。
（……誰か何かあれば貰おう、うん。卵や納豆、缶詰やふりかけとか……）
　そこへ後ろから聞き覚えのある声がした。
「ん、晩飯の材料足りないのかの？　したらうちは自分で作るわー」
「黒兎先輩……」
　夏でも長袖パーカー姿の、眠そうな目をした黒兎都だった。
「ああ、志波の弟くん。白米と味噌汁はもらえるらしいからあとはオカズだけだしの。それくらいならちゃちゃっと作れる。ほかの子達と飯の取り合いにはなりたくないからの」
（料理するんだ……そういえば、トシゾーさんのときも調理場で頑張ってたな）
　桜花寮は調理場の一部が開放されていて、許可を得れば使用可能なのだ。
「自分も……物凄く簡単なおかずなら作ってもいいかも……先輩は、何、作るんですか？」　
「とりあえず　今からだと炒め物がよさげかね。煮物は時間かかるし揚げ物は下ごしらえが面倒だし。何よりすぐできるってなるとその辺が妥当よね」
「……なるほど」
「ま、炒め物にするにしても何作るかの。野菜炒め……は妥当すぎるからなー」
　ジャガイモを味濃く炒めておかずにしようかと思っていた拓郎は、気持ちを見透かされたようでちょっとドキッとする。
「アスパラのベーコン巻きとあとはオーブントースター借りてじゃがいもと玉ねぎをグラタンっぽく焼くのもありか。よしそれで行こう」
　聞くだけで口の中に唾が湧いてくる。
「美味しそう……あの……作るの、手伝っても、いいですか……？」
　食べたいなんて言うのはずうずうしいし、言葉を選びながら拓郎は聞いてみた。
「ん、手伝ってくれるの？　それじゃ君の分も作ろうか。味はまぁ自己責任だし期待するなよ」
　一人で作るつもりだったが、誰かと一緒に料理ができるのは嬉しい。
「あ、それじゃ野菜……洗います。イモの皮むきも」
　
　さっそくトシコさんに許可を取りオーブントースターも借りて、調理スタート。
「まずはアスパラのベーコン巻きかの。アスパラを適当な長さに切って、塩コショウ振ったベーコンで数本まとめて巻いて」
　拓郎がジャガイモの皮をむいている間、都はテキパキとアスパラを切り、ベーコンで巻く。
「油なじませたフライパンでじっくり焼いていくだけっていうとても簡単なお仕事です、はい」　
　ジューッという音と共に、ベーコンのいい香りが鼻を刺激し、お腹がすいた拓郎は唾を飲み込む。
「玉ねぎとジャガイモの皮……むけました」
「ありがとう。それじゃ適度に切ってあとはお好みで刻んだハムやらベーコンやら……まぁベーコンはアスパラの方であるから今回使わんでおこう。耐熱皿にそれらを敷いて塩コショウ、上にチーズとマヨを少々」
「美味しそう……」
　拓郎がジャガイモを切っている間、都はちゃちゃっとハムを切り、耐熱皿の準備をする。
「10分～20分オーブントースターで焼けば出来上がりっと」
「あ、俺……味付け海苔、取ってきます。実家から送ってもらった……」
「うん、ありがと」
　グラタンを味見してみるとなかなか美味しく、都は幸せな気分になった。
　拓郎が海苔を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ。あの……俺、サンマ食べたかったけど……黒兎先輩と料理できて、食べられて、嬉しいです」
　拓郎の言葉に、都は三度目の嬉しさを感じたのだった。

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