寝子島大橋をわたって｜リアクション

寝子島大橋をわたって

「芦ノ湖や富士山も見えるんだな。いい景色だ」
　諸星譲の言葉に、詠坂紫蓮は頷く。バイクを麓に止めて、ロープウェイに乗ったところだ。紫蓮の胸元には、ガラスの里美術館のお土産のオリジナルグラスが大事そうにかかえられている。
「さっきの美術館、綺麗だったなー」
「うん、ヴェネチアングラスって、あんな綺麗な色が出るのね」
　ガラスの里美術館では、ヴェネチアングラスの展示のほか、ガラスを使った現代アートなども見ることができる。シンプルな透明の作品から、多様な彩色が施されたこった造形のものまで、ガラスの無限の可能性が伺える。
　併設の工房では、ガラス作りの体験もできる。紫蓮は、せっかくなのでそこでオリジナルグラスを作ったのだった。自分の好きな柄をグラスに入れられるということで、自分の名前にちなんで蓮の花をモチーフにした。フィルムに絵を描いて、それを転写するのだ。
　その後、綺麗な景色を求めて山の方に向かったのだった。
「いい写真が撮れるな……標高によって紅葉が始まる早さが違うのも面白い。ほら、紫蓮ちゃんも入って。撮るよ」
　レンズを向けられた紫蓮は、はにかみながら写真に納まる。
「あ、そうだ。譲にいさん」
「なんだい？」
　ちょうど二人きりのロープウェイの中で、交わされる言葉。
「さっき作ったグラスなんだけど……今日のお礼に、貰ってくれないかな？」
「俺のために、作ってくれたのか……ありがとう」
　譲は歯を見せて屈託なく笑う。
「でも、すごい偶然だな」
「え？」
「実は、俺も紫蓮ちゃんにあげようと思って作ってたんだ」
　譲は、丁寧に包装された包み紙を取り出した。紫蓮がそれを開くと―――
「オリジナルグラス……」
「蓮の花まで一緒だな。俺、紫蓮ちゃんから素敵なものもらってばかりだから、見合うものをちゃんと返していかなくちゃ、と思って……」
　同じものを相手に用意していたなんて―――二人は顔を見合わせると、思わず笑いだした。
「嬉しい……ずっと、大切にするね。今日は、本当に来てよかった」
　ロープウェイの車体が、がたりと揺れる。頂上に着いたのだ。
「いい眺め！いい写真いっぱい撮れそうね」
「ああ。よし、次も紫蓮ちゃん入って！」
「でも―――ふたりの写真も……撮れたら、いいな。今日の、記念に」
　紫蓮がうつむき加減にいったちょうどその時だった。
「すみませーん、写真、撮ってもらえますか？」
　二人に声をかけたのは、20代の青年と、高校生くらいの少女、小学生らしき少年の3人連れ。どういう間柄なんだろう？
　声をかけた青年、伊予祐は、人懐っこい笑みでカメラを手にしている。
　譲と紫蓮は、目配せして微笑む。紫蓮は答えた。
「いいですよ。次は、こちらもお願いしていいですか？」

「ペンギンさん、よく慣れてますね」
　御巫時子は、ペンギンにストレスを与えないよう、優しく撫でた。ペンギンたちのパフォーマンスにほっこりと癒された後だ。
　場所は、八景島の水族館。初めて訪れる場所なので、迷わないようパンフレットを見ながら進んでいる。
「アクアチューブは、本当に水槽の中にいるみたいですね」
　小さな極彩色の熱帯魚から、大きなマンボウやウミガメの姿も見える。珍しい貝や甲殻類など、水辺の生き物はなんでも見ることができる。水槽越しに間近に見る生き物は、とても綺麗で面白い。
　時子は、人が近くにいないことを確認すると、ろっこん「鳥の囀り」を発動した。
「ペンギンさん、パフォーマンスありがとうございました」
「どういたしまして」
　ペンギンが言葉を返す。鳥類と会話できるというのが、時子のろっこんだ。
「遠い国から来たんですか？」
「いや、僕たちはここの生まれだよ。君は遠くから来たの？」
「ふふ、近くはないけれど、その気になればすぐに来られるところから」
「そうなの、ならまた会えるね」
「ええ」
時子は微笑む。
「また、来ますね……」

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