オトナたちの一日｜リアクション

オトナたちの一日

カラオケボックス「シャンテ」の店長・典町託志はモップに体重を預けながら、開店前の店内を見回して満足そうに笑った。
「掃除良し、機械良し、厨房も良しと。開店準備はバッチリだな！　みんなー、今日も笑顔を大事にお客様をお迎えするぞ！」
「「はい！！」」
「張り切っていくぜー！！」
「「いえー！！」」
アルバイトを明るい声で鼓舞して営業が始まる。本日は日曜日ということもあり、開店直後から客足がいい。受付の案内の声が止まることもない。託志も注文のポテトを運んだり、電話を取ったりと忙しい。
「お電話ありがとうございます！　カラオケボックス『シャンテ』典町です！　パーティルームのご予約ですね？　何名様のご利用ですか？」
左肩に電話を挟み、右手でメモを取る託志。パソコンで予約状況を確認しながら電話をとるのはなかなか大変そうだ。
「30名で、本日13時からフリータイムでのご利用ですね！　畏まりました！　お部屋を確保しました。ご来店、お待ちしております！」
電話を切るまで、いや、切った後も笑顔を絶やさず明るい対応をする託志。受話器を置くと腹の底からのいい声でスタッフに、大きな仕事が舞い込んできたことを伝えた。
「お久しぶり、店長さん」
聞き覚えのある声にふりむくと、なぎさといたごがカウンターに並んでいた。
「あ、これはこれは、なぎささん！　今日は旦那さんとご一緒なんですね！」
「どうも。妻がカラオケ大会でお世話になったそうで！」
「今日は午前中、お店を息子に頼んできたので。この時間に旦那とふたりなんて珍しいから、ちょっと遊びに来たんですよ」
「おいおい。そこはデートって素直に言っていいんだよ……って、痛！　イタタ！」
ノロケはじめた主人の耳を引っ張る妻の図である。
なぎさといたごは午前中の漁が終わると、船の整備をするという若い漁師と婚約者と別れた。日曜日のこの時間帯に夫とふたりでのんびりできるなど、鮮魚店を営むふたりにはそうあるものではない。せっかくだから出かけようと言う話になり、気軽な服装でふたりで楽しめるところ……という流れで、シャンテに行こうと決まったのだった。
「相変わらずの熱々っぷりですね」
託志の言葉になぎさが苦笑する。
「この人ったら冗談ばかりで。今朝もサメに噛まれたとか大騒ぎ」
「サメ？」
「はは！　あの時のなぎさの顔、写真に撮っとけばよかったなぁ」
「本当にびっくりしたんですからね！」
託志は話についていけず首をかしげたが、魚屋夫婦はとても楽しそうなので何よりだと思った。顔見知りが店を訪ねてくれるのはとてもうれしい。
ふたりを部屋に案内した後も慌ただしく時間は過ぎる。
「店長、パーティールームの準備が整いました！」
「ありがと！　今日はハードだが、みんないい笑顔だ。午後の仕事も気合い入れていくぞ！」
「「はい！！」」
力強いスタッフの瞳に託志は頼もしさを感じる。
今日を無事に乗り切れたら、メシでも奢ってやるか！

このページにイラストを設定する