希望戦士ニャンダム・レクイエム｜リアクション

希望戦士ニャンダム・レクイエム

●宇宙要塞ジーマ・ネコ宙域　ラクシーン公国軍　サガミ艦隊　

「非戦闘員の脱出準備は整っているか？」

　宇宙戦艦の艦橋にこの船の艦長であるサガミ・アレイ大佐の声が響いた。
　彼は公国の名家の出であり、あの『黒い彗星』クローム大佐とも並び称される戦場のエリートだ。
　しかし、ここに居るのは本物のサガミではない。
　本物のサガミ大佐は先の戦いで行方不明になっており、ここに居るのはそのクローンであり影武者でもある、アレイ・ツー（八神修）だ。英雄サガミを失ったことを世間に公表しては、公国軍の戦意喪失にもつながりかねないとの上層部の判断だが、その事実を知る者は軍のごく少数の者だけだ。

「はっ、当初の区画分離に充てていた人員は総帥閣下が前線に回るようにとの命令を出されましたから、
　区画分離の方は時間も人員も足りていませんが、脱出艇が一隻手配できましたので、
　そちらの方に非戦闘員の乗船を進めている所であります」

　若い兵士が緊張し、申し訳なさそうな顔をしながら報告する。

「ここへきて、まだ戦う気でいるのかあの男は――　それよりも他にやるべき事があるだろうに……」

「大佐、お言葉が過ぎます……どこで誰が聞いているかわかりません……」

　アレイの言葉に若い兵士が慌てて窘め、アレイはそれ以上の苦言を胸に飲み込んだ。
　今回の最終決戦に臨んでは、先の演説でも公国軍は最後の一人までも戦い続け、公国本土を死守する事が唯一の意志であるとの発表であったが、実際のところは公国軍内でも和平を結ぶべきである等、早期の戦闘終結を望む勢力もあったのだが、戦闘の継続を望む派閥によって、それらの声は公国の栄誉を汚すものとして封殺されてしまっていた。
　アレイの言葉も場合によっては上層部への反逆と見なされかねない危険なものであった。　

「……すまんな。では脱出艇への乗船を急がせろ。そして我々は命令通り、要塞防衛線へ出る――」

　アレイの腕で鈴と磨いたトンボ玉のついたキーホルダーが揺れた。

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