ののこがきゃはあ～と笑ったら｜リアクション

ののこがきゃはあ～と笑ったら

【嵐の後にて３】

＜フォーチュン、アンフォーチュン＞
　嵐の去った翌日、塔ヶ崎璃亜は臨時のアルバイトに精を出していた。
「ひーこれを運ぶのですか……」
　シーサイドタウン、荒れ果てた街のお掃除。集めた枝やゴミを手押しリヤカーに乗せトラックへ運ぶ、地味で力の要る作業。猫の手も借りたい状況で璃亜は雇われたらしいが、こんな大変な作業なら、見た目の非力さで落としてくれてもよかったというものだ。
「でも割はいいので頑張ります……」
　街の景観が一日でも早く取り戻されるためにも。首に掛けたタオルで汗をぬぐい、璃亜はリヤカーを押す。
　と、通りをうろうろ歩いている男性とすれ違った。
「どうかしましたか？」
「いやあ実は財布を落としてしまって……ついこの間も落としたばかりなのに全くついてないです」
「そうなんですね……もし見つけたらすぐにお知らせしますね」
「はあ、ありがとうございます」
　見るからに幸の薄そうな人だ。軽い親近感を起こしながら、トラックにゴミを積む。
「ふう」
　少しだけ縁石に座り休憩。
「そこの作業着が似合うお嬢さん」
「……？」
　唐突に声をかけられた。
「よろしければこの後食事でもいかが？」
「あ……いえ、まだ仕事があるので」
　そそくさと立って離れる。
（な、ナンパ？　確か２組の……なんでバイト中の私なんかに）
　首を捻りながら作業場へ戻って行く。

　璃亜の背中を見送りながら八十八旗信彦はため息をつく。
「ポーズを決める暇もなかったな」
　信彦は諦めない。他のレディに照準を絞る。
（今日は調子がいいからなあ）
　声をかけるレディたちの反応は上々だった。
（時代が俺にようやく追いついた、ってことか）
　とにかく手当たり次第、女性を見かけたらナンパしている。
「そこのお姉さん、どこかお出かけですか」
　璃亜から一転、今度は年上のナイスバディな女性を呼び止めた。
「あらあら、もうちょっと大きくなってから、ね♪」
　年下には興味ないのか、一瞬足を止めただけでまた歩き始める。
「そんなこと言わずに」
　再び呼び止める信彦。そして髪をさらりとかきあげるポーズ。
（あら）
　明らかにうざい仕草なのだが、なぜかそれが彼女のハートを射止めていた。
「どうですかお食事でも」
「ふふ、それもいいかもね」
（よっしゃ！）

「うう、重たい」
　リヤカーで往復中の璃亜。
「あ」
　前から女性と並んで街を行く信彦がやって来る。
（ナンパ、成功したんだ）
　彼らとすれ違う、そのとき。
「げっ」
　落ちていた丸枝に滑る信彦、盛大にこけて地面に頭を打ち付ける。
「い、いったあ」
「プ、ださい」
　吹き出す同伴の女性。そこで信彦のろっこん効果の好感度がガタ落ちした。
「やっぱりやめておくわ、じゃあね」
「あ、ちょ、お姉さん、ウッ」
　頭がクラッとしてうまく立ち上がれない信彦だった。
「何たる失態……ついてないな」

（お気の毒に……）
　信彦に同情していると、先ほどの男性が駆け寄って来た。
「財布見つかりました！」
「あ！　良かったですね」
「はい。いやあ何だかついているなあ」
（財布落としたのがそもそも不運なんだけどな）
　と思いつつも、陽気な男性を見送った。璃亜のろっこん「運命の輪」の賜物、間接的には信彦が転んだ不運に依るものだが、誰も全く気づいていない。
「きゃ」
　幸運の反動。バランスを崩して転び、リヤカーの中身が全部璃亜に降ってくる。

　頭を強打して尻もちの信彦と、枝葉まみれの璃亜。不運な似たもの同士、目線が合うと言葉なく笑い合う。

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