ぴぽちゃんのごほんゆび｜リアクション

ぴぽちゃんのごほんゆび

「お兄ちゃん、これ分かる？」

「nitteikokuban」と書かれたメモを見て、八神修は少し予想外だった。
（俺以外にもこの夢に迷い込んだ人間がいたんだな）

「ああ。これは……植木鉢って意味の英語だよ」

　機転を利かせてごまかし、植木鉢に手を伸ばすと、ぴぽがすかさず「幸せのおまじない」の説明をする。
　修は相槌を打ちながら、すばやく植木鉢に結ばれたメモの内容を確認した。

「ぴぽも結ぶお手伝いしたんだよ」

「へえ、ぴぽってかわいい名前だな。誰がつけたの？」

「あのね、先生がみんなに読んでくれた本に出てきた女の子の名前なんだよ。その子もみほちゃんだったから、みんな私のこともぴぽって呼ぶようになったの！　先生もいっぱい呼んでくれたよ」

（……つまり、絵本のみほちゃんが「ぴぽ」ってあだなだったから、この『みほちゃん』も同じように呼ばれたと）
　考えを整理しつつ、修はさりげなく次の質問をする。

「ぴぽはどうして職員室入らないの？」

「コーヒー臭いし、怖い先生もいっぱいいてやだ。きんちょうする」

「そっか。じゃあ、ちょっと行ってくる。すぐ戻るよ」

　修は職員室に入ると、最初に校長室へ入った。素早く辺りを見回し、何もないと知るとすぐ次の行動に移る。
　数ある教師の机を片っ端から見ていくと、音楽の教師らしい机に『Ｇ』と書かれた鍵が置かれていた。
（一応、持っていくか……）
　それをポケットに入れた時、

ピーーーーーーーーーーっ

　大きな音が職員室に響き渡った。音のほうに駆けつけると、給湯室のコンロに薬缶がかけられている。
　火を止めると音は止んだが、隅々まで調べても誰の仕業かは分からなかった。　
　最後に、メモにあった日程黒板の前に来て、修は息を飲んだ。廊下にあった情報が整理されている。手頃な紙とペンを使い、それらを写し取ってゆく。
　文字は全て漢字の当て字だ。
　黒板に立てかけられていた日記は中でも怪しく、見つけた人物の功績か『じんたいもけい』と『お楽しみ会』に赤い線が引かれていた。
（確かに人体模型は臭うな）
　去り際に輪ゴムを拝借し、修は涼しい顔で廊下へ出た。

「遅いよ！」

「ごめんごめん、紙がなかなか見つからなくて。やっぱり探し物や失くし物って簡単に見つからないな」

　メモを結ぶ振りをしながら、修は輪ゴムで細工をし、鍵を窓枠に括った。それが終わると、ぴぽと会話をしながら記録をとる。

「ところで、探し物はどうしてなくなったの？　何か左手に持っていた？」

「……分かんない。覚えてるのは、車のライトが眩しかったこと。その後ここで目が覚めた時にはもうなかったの。手にはなにも持ってなかったよ」

「そっか。眩しかったってことは、車が正面に来たのかな？」

「…………たぶん」

　言葉が減ったぴぽに配慮して、修はそこで話をやめた。メモのひとつを結び、残りは窓枠に挟む。
　理科室に向かいながら、修は七不思議とお楽しみ会について聞いてみた。するとぴぽに元気が戻る。

「うん、もけいは怖くてみんな近寄らない！　お楽しみ会はケームしたり出し物したりするの！」

　理科室に着いたふたりは、一目散に人体模型に駆け寄る。ぴぽは怖いらしく、修の後ろに隠れつつではあったが。

「へえ、これ、内臓が取り出せるんだ」

「きゃーっ！　やーっ」

　修はひとつずつ内臓を取り出してゆく。そしてぽっかり空いた空洞の中に、それを見つけた。

「ぴぽ、ほら」

「きゃーっ！　って、わあ！　ぴぽの！」

　出てきた人差し指は、きれいにぴぽの左手へ収まった。

「ありがとうお兄ちゃん！」

　そこで、修の意識は途絶えた。

　起床時間前に目が覚めてすぐ、修は夢をノートに書きだした。記憶があいまいになる前に、情報を整理し、内容を推理する。

「……もしかしたら」

　そう呟いた時、かけっぱなしだった目覚ましのアラームが鳴った。