ぴぽちゃんのごほんゆび｜リアクション

ぴぽちゃんのごほんゆび

　呉井陽太が最初に目についたのは、植木鉢に向かって背伸びしている女の子だ。白いおみくじのようなものを結ぼうとしているらしい。
（なるほど、ウワサのぴぽちゃんに選ばれちゃったのかぁ）
　特徴的な左手をみた陽太は目線を低くして話しかけた。

「オレ、背高いから結べるよ。結んであげよっかぁ」

「ありがとう！」

　渡された紙を結ぼうとして、その中に文字が透けていることに気づいた陽太は、ぴぽに見えないように紙を開いてみた。

『ぴぽは左手でピアノを弾く。ひまわりとドロップがすき。凶器っぽいもの、野原でみつける』

「あと、これも」

　裾を引っ張られ屈むと、ぴぽが同じ紙に包まれた何かを渡してきた。
　中に入っていたのは、きらきら光る金属の端材だ。メモを見ていた陽太は、これの意図するものがすぐ分かった。

「これも植木鉢に飾って置こうか。持ち歩いて失くしても嫌だよねぇ？」

「じゃあそうする」

「決まりー！　それじゃあ探し物探しにいきますかねぃ」

　陽太は『理科室』と書かれた扉を開ける。「いかにも」な匂いと雰囲気に包まれた空間だ。

　その中にぽつんと置かれたひとつの生徒の机。陽太は迷わずその席を調べた。引き出しから出てきたのは「交かん日記」と書かれたノートだ。
　ぴぽが剥製を見に行っているのをいいことに、ぱらぱらとめくってみる。

『○月×日　知ってる？　りかしつの人体もけいが動くんだって。学校の七ふしぎらしいよ。
　○月△日　ほんとに？　こわいからあんまり近づかないようにしよう。あと、もうすぐクラスのお楽しみ会があるでしょ。だしものいっしょにやろう！』

「ヒントになるかなぁ？　まあ、念をいれて」

　ノートをズボンの間に挟みベルトをきつめに止めた。それから黒板に寄り、白と黄色のチョークを手に入れる。
　準備を整えてから、陽太はぴぽの隣へ立った。

「お、なんかありそう？」

　陽太も戸をあけて隅々まで探してみたが、あるのは不気味な剥製やホルマリン漬けの蛙たちだけだ。

「そうだ！　ぴぽちゃんかくれんぼしよーよ。オレ、鬼やるからぴぽちゃん隠れて」

「分かった！　じゃあ数えて待ってて！」

　一分数えて、陽太はぴぽを探し始めた。しかし、陽太はぴぽがいる場所を推測できていた。

「ぴぽちゃんどこー？　あれ、ここじゃなかった」

　そんな芝居をしながら机と左の棚にチョークでチェック印を残した。次に交換日記の後ろの頁を破き、黄色のチョークで探索結果を書き込む。
　全ての仕込みが終わったあと、がちゃりと準備室をあけた。

「あ、ここにいたんだ。みーっけ」

「お兄ちゃん時間かかったね！」

「うん、ぴぽちゃん隠れるの上手いわ―」

　話をしながら廊下に出る。さりげなくさっき書いたメモを植木鉢に結び、陽太は『職員室』を目指す。

「……そこ行くの？」

「うん。早くおいでよぅ」

「ぴぽ職員室嫌い」

「うーんそっか。なら行ってくるね」

　入ってみると確かに職員室独特の匂いがした。しかし、ぴぽが入れないのは陽太にとって幸いだ。
　陽太は日程黒板を見つけ、そこに交換日記を置いた。適当な紙に廊下のヒントも書き写し、テープで貼る。

「お兄ちゃん、指あった？」

　扉の擦り硝子に、背伸びをした影が映る。陽太が扉を開けると、期待に目を輝かせたぴぽがいた。
　陽太は罪悪感を覚えながら、日程黒板が見えないよう素早く扉を閉めた。

「それが、どうも見当たらなくてねぃ」

「……そっか」

　がっかりするぴぽに、陽太は職員室で準備しておいたメッセージを渡した。

「でも、これが解けたらもしかしたら、指見つかるかも知れないから解いてみて？」

「うん。……ねえ、お兄ちゃん」

「なんだぃ？」

「指、一本だけでいいからちょうだい？」

「……夢で良かったですねぃ、ほんと」

　飛び起きた陽太はぴぽに握られた人差し指を握ってみる。
　寝起きとは思えないほど指先は冷たく、時折ぎしぎしと軋んだ。