ぴぽちゃんのごほんゆび｜リアクション

ぴぽちゃんのごほんゆび

「まあ、これが噂で聞いた夢なのね」

　ネミッサ・ネモローサは目の前にいる同じ年頃の少女に笑いかけた。

「指を失くした可哀相なぴぽちゃん。ネミッサ、失せ物探しは得意よ。一緒に探してあげるわ」

　ネミッサは優雅な足取りで職員室の前に立ち、扉をあける。

「そこ、はいるの？」

　ぴぽの足は入り口でぴたりと止まった。

「どうしたの？　職員室が怖いの？」

「匂いがやだ。緊張する」

「なら、ちょっと待っていてね。見てくるから」

　ネミッサは扉を閉めると、すたすたと職員室を回った。そして、ぴぽの担任らしき机を見つける。
（机にふせんがはってあるわ。『ぴぽ、今週で忘れ物三回目』ですって）
　机の引き出しを開けると、『れんらくちょう』と書かれた冊子が出てきた。開いてみると、最後のページに例の五つの忘れ物が書いてある。

「『わすれもの　ぴぽちゃん』なんて書いてないじゃない。でも……それよりもっと面白いことが書いてあるわ」

『先生から：ぴぽちゃん、あんなこといってごめんなさい。こんなことになるとは思ってなかったの。ごめんね。できるなら、もういちど学校に来てください。』

「ミスぴぽはずっと夢の中の学校に囚われているのにね」

　くすくすと笑いながら、ネミッサは連絡帳の最後のページに挟まっていた藁半紙を開いてみた。内容はクラスで催す『お楽しみ会』についてだ。
　期日は、ぴぽがひかれた日の翌日になっている。
　ネミッサは元通りにそれらをしまうと、紙とペンを取り、分かったことをメモした。そしてそのメモを紙飛行機にする。
　更になにも書いていない紙でもう一つ同じものを折った。折っている間に、廊下からぴぽの歌が聞こえてくる。

「ダーブリューシー　ブラッドポーチ　インスッポン　インスッポン♪
　ラーイブラリー　ピポブック　オン　カウンター♪」

「……何とも個性的なマザー。グースの替え歌ね。せっかくだから書いておこうかしら」

　メモに歌詞を書き足し、飛行機を持って外に出ると、ぴぽが目を輝かせた。

「それ、お姉ちゃんが作ったの？」

「そう。どっちが長く飛ぶか競争しましょ。それよりさっきの歌は何かしら」

「お兄ちゃんが教えてくれた！　レディに歌えって。聞こえた？」

「勿論」

　メモが書かれていないほうをぴぽに手渡し、ふたりで廊下の奥から飛ばす。

「やった！　ぴぽの勝ち！」

　飛行機を置き去りに、ふたりが向かったのは『野原』の部屋だ。
　涼しい夜風が吹き抜ける野原の中央に、ふたりが悠々入る大きな穴があった。

「暗くてよく見えないわ」

　ネミッサが更に深く覗きこもうと身体を倒した時、

「きゃあっ！」

「お姉ちゃん、大丈夫？」

　穴に落下しそうなところをぴぽが捕まえ、幸いネミッサは落ちずに済んだ。振り返ったネミッサの前に広がるのは閑散とした野原の風景だけだ。
　ネミッサは急に黙り込み、やがてぽつりと呟いた。

「ねえ、指がなくて哀しい？」

　ぴぽは深く頷いた。ネミッサはにこりと微笑む。

「なら、ぴぽちゃんは指を持ち去った犯人をどうしたい？　憎い？　殺したい？」

「え？」

「今ネミッサの背中を押したのはきっと犯人だわ。私達が犯人を見つけようとしてると思ってるのよ」

　ネミッサの瞳が妖しい光をおびはじめた。

「復讐するならネミッサ手伝ってあげる。そして犯人の指を貰いましょ！　名案だわ！」

「ぴぽ、犯人なんて知らないもん。ただ指が」

「ネミッサは指をあげたくないわ。ティーカップが持てなくなっちゃうじゃない」

「……もういい！」

　ぴぽは握っていたネミッサの手を、思いっきりひっぱった。

　その日、ネミッサはティータイムを楽しんでいた。時々つっぱる左の小指を面白そうに眺めながら。

「今度こそ、一緒に犯人の指を切り落としましょうね」