ぴぽちゃんのごほんゆび｜リアクション

ぴぽちゃんのごほんゆび

　結緑一色は廊下の隅できょとんとこっちを見ている女の子がいることに気づいた。

「ぴぽと一緒の背だ。あなただれ？」

「オレさまちゃんは結緑一色！　アンタこそだれ？」

「ぴぽだよ。指なくなったから探してるの」

　その名前に一色は聞き覚えがある。学校で話題になっていた怖い噂に出ていたのだ。

「あー！　チョー知ってる！　同じクラスのヤツから聞いた！　オマエ、次忘れ物したら先生にみすてられるんだろ？」

「……ぴぽだってしたくて忘れ物してるわけじゃないもん」

「そうなのか？　じゃあオレさまちゃんが忘れ物しないように助けてやるぜ！」

　そう云うと一色は勢いよく『ぴぽの部屋』に乗り込んだ。

「ほらぴぽ早く！　忘れ物探すぞ！」

「あ、そう云えば金色のお兄ちゃんが忘れ物書いてくれたの」

　そう云ってぴぽが持ってきたカードの裏には、丁寧な字で五つの持ち物が書いてある。

「でも、これじゃあカードを持ち歩かないと忘れちゃうだろ？　オレさまちゃんがもっと覚えやすいようにしてやるよ！　ぴぽ、右利き？」

「うん」

「じゃあ左腕巻くって！」

　手袋の代わりに薔薇の指輪が飾られた左手をとり、一色は一生懸命油性ペンで持ち物を書き込む。

「これで忘れないだろ！　じゃあ最初は、部屋にありそうなものからだ！」

　勢いよく押入れを開けると、

「あ、ぴぽもう場所分かるよ。ハンカチとたいそうぎとリコーダーは、刀お兄ちゃんがみつけてくれたの」

「そっか。じゃあ、見つけた場所も書いておこうぜ！」

　一色はペンで、ぴぽの腕に持ち物の見つかった場所をつけ足した。

「と、なると、残りははしとハブラシか……。でもそんなのここにはなさそうだな」

　その呟きにぴぽは恥ずかしそうに首をふった。

「あのね、はしもハブラシも給食袋に入れて用意してたの。でもそれを忘れて学校に行っちゃったんだ」

「じゃあ、その袋を見つければいいんだな！　オレさまちゃんに任しとけっ」

　押入れの下段に頭を突っ込み、探すこと五分。給食袋は無事に整理棚の裏から見つかった。
　どうやら目立つようにと整理棚の上に置いたのが、下に落ちてしまっていたらしい。

「よし、これで先生はぴぽの先生のままだ！」

「うん、ありがとうひいろくん」

　お礼の言葉に、一色は俄然やる気が出てくる。

「よし！　今度は連絡帳探しにいこうぜ！」

「でも、『ここ』にぴぽの教室はないんだ」

　これにはふたりで頭を抱えた。ぴぽの机は教室以外の場所にはない。それは明白だ。

「ちくしょー、なんで教室がないんだよ。チョーおかしいだろ」

「……あ、でも体育館の地下にね、いっぱい机あったよ。お姉ちゃんと見た」

「それだ！」

　ふたりは廊下を駆け、一目散に地下倉庫へ向かって走る。薄暗い階段も怖がっている暇なんてなかった。

「どっちが早く見つけるか競争だ！」

「うん！　負けてもうらみっこなしね」

　そうして探し始めたはいいものの、机はどれも古びてつかえなくなったものばかりで、出てくるのは埃や落書きの紙だけだった。

「ちぇ。ここにはないのかあ」

「残念だね」

　疲れ果てたふたりは、スプリングが壊れたソファを見つけ、どっかりと座りこんだ。

「……なあ、指みつかるまで、いっしょに探そうか？」

「大丈夫だよ。みんなが手伝ってくれたから、あと一本なの」

「そっか、なら大丈夫だな！　持ち物もそろえたし」

　ぴぽは小さく頷いたあと、「でも」と、呟いて一色の手をとった。

「一色くんの指、ぴぽと大きさが似てるから、くっつけれるかも」

　大粒の汗を額に浮かべ、一色は目を覚ました。

「……な、なんであんなひどいことするんだよ、ばぁかっ！」

　痛む小指を抑え、一色は夢の中まで聞こえそうな声で叫んだ。