フリマへ行こう！｜リアクション

フリマへ行こう！

●手に入れたものは
　境内から出て行く人の流れの中に、口笛が響く。曲は、誰もが一度は聞いたことのある、時代劇のテーマ曲だ。
　吹いているのは、結衣香だった。
　目当ての本が見つかって、うれしくてたまらないのだ。
　だが、石段のところまで来て、慌てて吹くのをやめる。
「ござるさんが、でちゃいます」
　低く呟き、口元を抑えた。
　「ござる」さんは、彼女がろっこんで召喚することのできる、武士だった。召喚する時には、口笛で時代劇のテーマ曲を吹く。そう。まさに今のように。
　こんなところで、用もないのに武士を呼び出すわけにはいかない。
　彼女は口元を抑えたまま、頭の中でさっき口笛で吹いていたメロディを鳴らしながら、石段を下り始めた。音にできない分を、足が補っているのか、その足取りはまるで、スキップしているかのようだ。
　同じく石段を降りようとしていた無銘は、その彼女に気づいた。
「今日の戦果は上々ってとこか？　おめでとうだぜ」
　追いついて、すれ違いざま、そう声をかける。結衣香は一瞬、きょとんとしたが、すぐに古本屋で出会った小学生だと気づき、笑って答えた。
「ありがとうございます」
「じゃあな」
　それへ手をふり、無銘は階段を駆け下りる。真央のところでもらった冊子類を、ここを出たらじっくり読もうと考えながら。

　すっかり人気のなくなった境内の片隅で、冴来は一人、紙袋からコスモスと天然石のブレスレットを取り出した。
　一つは妹に、一つは自分のために買ったものだ。
　少しためらってから、彼女はそれを腕にはめてみる。
（変じゃない……よね？）
　胸に呟き、なんとなく気恥ずかしい気分で、あたりを見回した。
　と。
　袋片手に、目につくゴミを拾っていた聖と目が合った。
「あ、あの……。これ、変じゃないよね？」
　ブレスレットをはめた手を見せ、思わず尋ねる。
「全然、変じゃないです。とっても似合ってます」
　軽く目を見張ったものの、笑ってうなずく聖に、冴来は恥ずかしくなってうつむいた。
「あ、ありがとう」
　礼だけ言って、そそくさと歩き出す。
　石段の前まで来て足を止め、大きく息をついた。
（私ったら、何やってるんだろう）
　気を取り直して歩き出そうとし、ふと脳裏にさっきの聖の言葉がよみがえる。笑顔と明るい声が、嘘ではないと教えていた。
　彼女は、いつもどおりの足取りで、石段を降りた。そして、自宅へと進路を取る。妹に、ブレスレットを渡すために。

　そのころ。
　すでに自宅に戻っていた神々ノ黄昏は、試着の真っ最中だった。
　フリルもリボンもなく、シンプルなオフホワイトとデニムの青は、思った以上にすっきりと彼女の体を包み込んでくれた。
　その姿を鏡に映し、彼女は何度もたしかめるように体をねじったり、ポーズを取ってみたりしている。
「フリマに行って、よかったのでございます！　……お店の方も、私の助言で服を買って下さったあの方も、本当に本当にありがとうございましたのでございます！」
　鏡の前で、改めてそう叫ぶ彼女なのだった。

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