ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

【旧市街　外れ】
　九夜山と旧市街のちょうど境目、またたび市動物園の裏手あたりに、遭難救助隊の本部が置かれていた。一昨日から行方知れずとなっている６０歳男性の捜索は難航している。

「先ほど連絡があり、先発隊は全滅したと……」
「全滅！？」
「怪我人が出て、下山しています」
「戦争じゃないんだぞ！？」
「全くわけがわかりません……」
「く……うかつに捜索には出られないな」

　晴天の下。ヘリポートのある広場で会議する捜索隊は手も足も出せない状況だ。

　そんな彼らを遠目で見つつ、救助ヘリのある格納庫へこっそり忍び込もうとしている４人がいる。
「それでは解体ショーの始まり♪」
　桃川圭花。目を閉じ、眼鏡を外す。
（最初のこの儀式が肝心なのよね）
　慎重に畳むと胸元に引っかけ、ゆっくり目を開いた。
　ろっこん「ガレージランド」。格納庫裏の扉を開けにかかる。
「ちょろい施錠ね」

　いともあっさり格納庫へと侵入。中にはヘリが一機。
「なるべく細かく解体してくれよ」
　スケッチブックを開きながら旅鴉月詠。
「まっかせといてー」
　初島優が元気よく応えると、
「静かに頼むぞ」
　見張り役の笹森清真が注意する。
「さあどこから解体しようかしら？」
　今日はゴキゲンだからいつもより多めに解体してあげるわ。圭花はヘリの側面を指先で撫でる。
「待ってねー」
　優、ゴーグルをかけてヘリの先に触れた。ろっこん「技術者の目」が対象の仕組みを一瞬にして把握する。
「まずは尾翼部分を離すかな。こことここのボルトを外して」
「了解〜♪」
　周囲に目を配らせながら清真が訝る。
「本当に後で元に戻せるのか？」
「自分で何とかなりそうなとこだけ外すから大丈夫だよ〜。あ、こっちも取っちゃって」
　楽観的な優。
「私も解体しながら構造を記憶しているから。たぶんいけると思うわ」
　素手でテキパキと解体ショーを繰り広げる圭花。裸眼のため遠くはほとんど見えない。逆に手元は鮮明とし、脳内もクリアー、ヘリの構造がインプットされていった。
（また強くなってるわね）
　上達を実感する圭花。迅速かつ精巧な解体。ときに考えることもある、この能力の有する恐ろしさを。
（でもゴキゲンなときはそんなことを考えてる場合じゃないのよね）
　今この力は誰かの役に立っている。それでいいじゃないかとシンプルな結論を圭花は導いていた。

　ゴトッ。尾翼が落ち、ヘリは尻尾のないネズミのようにみすぼらしくなる。

「この大きさなら十分だ」
　外された尾翼に寄る月詠。スケッチブックの絵を触れさせる。ろっこん「絵空事」は生物でなければ対象を絵に封じることができる。
（凄まじい光景だな）
　優が構造を完全に理解し、圭花が素手で解体、月詠がコンパクトに収納。見ていて清真は呆れに似た思いを抱く。その一瞬の弛みが、格納庫へ入ってくる作業服の姿を見逃していた。

「だっ」
　目を丸くする作業員。突っ込みどころ満載の光景に驚くのも無理はない。叫び声をあげるのすら忘れている。
（まずい）
　と思うと同時に念じる。届け、と。
　清真のろっこん「セツナトリップ」。刹那、作業員の背後に回っている。
「なっ！？」
　相手が視認する前に口を押さえ、体を拘束する。
「ごめん、少しの間だけ黙って見ていてくれないか」

　目と口を封じ手足を縛られた作業員が転がるすぐ横で、ヘリの解体＆収納は終了。
「遭難者は必ず俺たちが助けるんで、どうか内密に」
　清真が頭を下げる。
「どうせ誰も信用してくれないだろうケド」
　不適に笑む圭花。
「俺たちに任せておいてー」
「行こう」
　優と月詠が先頭を行き現場を後にする。

　無事、ヘリは格納庫の小さな裏口より盗まれた。否、レンタルされた。