ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

【星ヶ丘】

　星ヶ丘と寝子島シーサイドタウンのちょうど境の辺り、来栖棗はぶらぶらと夕暮れの街を歩いていた。家にいるのが嫌だから適当に徘徊していたが、この島自体も好きではなかった。
（平和な街の振りして、実際は汚れてんだ）
　外面だけを繕う人間が大嫌いな棗。要するに年相応にすれているわけだが、無理もない。背景には彼自身トラブルを抱えていたりする。
（……ほら、あそこにも）
　寝子島の汚れを見つける。人の目が届かない小道、いじめられっ子が高校生の不良３人に絡まれている。
（弱いものいじめなんてだせぇ真似すんなよな）
　退屈しのぎに飛び込んでもよかったが、どこか気分が乗らない。構わず行こうかと思ったとき、
「３対１って卑怯じゃないかな」
　集団を挟んだ道の反対側から強気な声がした。
（あれは……同じ中学の）
　棗の見覚えのある顔だ。

「なんだてめぇ」
　上級生３人に睨まれても呉井弦月は怯まなかった。ヴァイオリンの練習の帰り、寄ってたかって吊るし上げられているのを見ていられず、気づけば声を張り上げていた。
「どこのお坊ちゃんだい。さっさと帰ってママのおっぱいでも吸ってやがれ」
（なんてお約束な台詞だ）
　しかもちょっと古い。
「お、それヴァイオリンか。俺たちが大切にするから、置いて消えな」
「お前らがまともにこれを扱えるとは思えないんだけど？」
「いちいち癪なこと言いやがるな」
　と不良A。
「やっちまうか」
　と不良B。
　弦月にじりじりと詰め寄る不良ABC。

「てめぇら邪魔だよ」
　差し迫った状況で、今度は反対側から棗が割って入る。
「でけえ図体して道塞いでんじゃねぇ。てめえらこそ消えろよ」
「なんだとてめぇ！」
　不良ABCの怒りは頂点に達する。
「逃げな」
　いじめられっ子の背中を押す。ひゃい、という気の抜けた返事とともに走り去っていった。
「いいのか、３対２だぜ？」
「ほんと数しか威張れねぇのな」
「ぐ！」
「そこのお前、弦月とか言ったか」
「ああ。君は確か……棗君、だったか」
　学校でそう呼ばれていた記憶がある。同じ中学に通いつつも、お互い全く関わらない性質だった。
「お前も逃げていいんだぜ？　楽器やってんなら手は大事にしな」
　強ばっていた表情を崩し、フッと笑む弦月。
「手のことは心配しなくていい。自分から首突っ込んだことを君一人に押し付けるつもりはないよ」
「……ふん、そうか。足手まといにはなるなよ」
「さっさと片づけよう」
　
「作戦タイムは終わったか？」
　胸を出っ張らせる不良Aに棗は言い放つ。
「お前らこそ逃げてもよかったんだぜ？」
「ふざけんなっ！」
　腹を殴られる。この体格差、さすがに痛い。顔を少し歪めながらも反撃の一撃。立て続けて顔面に頭突き。Aが痛がっている内にBを相手にする。

（こんな奴に手を使う必要なんてない）
　弦月の得意技は蹴り。向かってきた不良Cのストレートを避けて脛を蹴る。
「ぐっ」
（なんだ脆いな）
　向こうからも反撃の蹴りが来るが、持ち前の身のこなしであっさり回避。
（あれを使うまでもないな）
　そう思った直後。
「このやろう！」
「……本当に卑怯だね」
　自転車に立てかけていたバットを持ち出した。

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