ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

【九夜山　桜川】

　紙製の硬い舟は、案外に早く見つけられることになる。

　飛吹勘助は桜台墓地の横、桜川沿いを一人歩いていた。もとい、アンゴラ兎のぬいぐるみ「もふもふ」を抱いて一緒に歩いていた。
　彼はこの夏寝子島に来たばかり。９月から寝子島高校に通う。フツウの転校生以上に大きな不安を抱えていた。その不安の種とは——彼の年齢離れした見た目もそうであるが——最近身に付いた変な能力だった。

　——人魚に変身する。

　この能力を誰かに知られたら、自分はどのような目で見られてしまうのだろうか。勘助はそれが不安でたまらない。
（最初知ったときはびっくりしたけど……でも嬉しかった）
　もふもふと川を見下ろしながら思う。水の世界を自由に泳げる神秘的な人魚に勘助は憧れていたのだ。
（……嬉しいけど不安……）
　いつも同じ気持ちの中をぐるぐる巡っている。
（もうからかわれるのは嫌だ……）
　勘助に必要なのはそう、自信だ。
　
「もふもふ……頭が痛くなってきたよ」
　胸に抱いたもふもふと向き合う。もふもふしている内に心が少し休まり、喉が渇いていることに気づいた。
　気分転換に。ジンジャエールを一気に飲む。

「う……！？」
　途端に異変。下半身にブルーの鱗が生え、立つことがままならなくなり、太陽の熱に目眩がする。飲料水を一気飲みすると人魚に変身してしまうのだ。
　慌てて服を脱いで畳み、その上にもふもふをちょこんとのせる。
（人もいないし、少し泳ごうか）
　川の深い所へと潜り、猫又川目指し遡る。
（淡水も悪くないかな）
　人魚姿で泳ぐのは、速く美しく気持ちがいい。

　しばらく泳ぐうち、水面をゆらゆら漕ぐ影に気づいた。
（これは……？）