ろっこん・トラブル・シューティング｜リアクション

ろっこん・トラブル・シューティング

　逃げたナンパ男のリーダーを追い九夜山へと入った八神修、夜乃理沙、鹿黒浅黄の３人は猫又川で途方に暮れている。
「臭いはここで途切れてるよ……」
　姿を人間に戻して浅黄。どうやら男は川の中を泳いで逃げたようだ。これでは臭いが消えてしまう。
「下流と上流……定石ならアジトは奥深い上流か」
　考えに耽る修。

　と、川からにょきっと頭が一つ飛び出す。

「！？」
　あまりの驚きで言葉を失う３人。追っていた男かと身構えたが違った。
「あっ、これ……泳いでたら拾って……」
　もじもじとした言動で３人に寄る飛吹勘助。すでに下半身が鱗に覆われているのは見られている。
「これは」
　受け取った折り舟。紙のようだが、紙でない。
（ろっこんか……）
　川沿いの建物に捕えられている。と帆には書かれている。
「さっき……泳いでいったら、コンクリートの建物が」
「そこだな」
　アジトは特定された。
「急ごう」
「あの……」
　再び駆け出そうとする３人を呼び止める勘助。
「俺のこの姿……怖くない？」
「？」
　解せない修。
「特に怖くはないが。今は感謝の気持ちしかない。変身タイプは地形に強いからな。素直にうらやましい」
「まあわたしも野蛮な狼になっちゃうし」
「僕は甘いもの食べると筋肉もりもりになるって、さっき知ったし」
「人魚、綺麗でいいなあ」
「だな」
「……」
　言葉を見失う勘助。よし行こう。修の一言で動き出す。
「あの……気をつけて」
「ああ、ありがとう」

　彼らを見送り、勘助は思う。
（あとでもふもふに伝えないとな）
　尾ひれで水面をパシャリと打つ。
（寝子島ならうまくやっていけそうだよ、って）
　水中で笑顔を作り、もふもふの元へ下っていった。

　建物は１階建て、川沿いでも木々の多い、鬱蒼としたところにあった。全面コンクリート、高いところに窓はあるが格子がはめ込まれている。扉は一つ。
「案の定、鍵がかかってる」
　理沙が押しても引いてもびくともしない。
「あまり多用はしたくないが」
　集中する修。ろっこんでいともあっさり、鍵を外す。

「あー助かったー」
　開放感と安心に浸る岡野丸美。
「僕たちの共作に気づいてもらえたんだね。よかったよかった」
　満足そうにうなずき、それにしても、と続ける瀧原玲衣。
「僕たちをとらえてどうしようと思っていたんだろうね。ろっこんを見せてみろ云々ほざいてたが」
「ここで見せ物小屋でも経営しようと思ってたのかな？」
　そう言いながらパンパンパン、頭にのせた葉を紙に変える丸美。
「そ、その程度ならいいんだけど……」
「女の子ばかりだし、怪しい商売に売り飛ばしたりとか……！」
　おののく浅黄。が、すぐに玲衣が否定する。
「いや、僕は男だから」
「えーっ！？」

　というわけで２人は無事救出。大きな怪我もなく無事に下山へと至るのだった。
（何ともあっさりな結末だな）
　修は納得できない。追いかけていた男はいないし、彼らの目的も分からずじまいだ。アジトの一つを見つけたことと救出できたことは収穫ではあるが、まだ深層はあるように思えた。
（まるでろっこんを試している、もしくはろっこんで遊んでいるような印象だ）
　安易に自身のろっこんを多用したことを少し悔いる。
（まあしかし、こちらにも人材は溢れているからな）
　心強い仲間たちのことを思い、ひとまずこの件は落着ということにする。

　鍵を分解された建物。扉の前には丸美の置いた紙切れが一枚。
「ドア壊しちゃってごめんなさい」
　可愛いタヌキの絵と一緒にそう書かれていた。

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