不思議なお面にご用心？｜リアクション

不思議なお面にご用心？

＜思い出がいっぱい＞

「たこ焼き・焼きそば・焼きモロコシ！　ケバブにかき氷……お、綿菓子発見なのだ！」
　後木真央はかき氷の屋台にエスコートしがてら、小島海美の小さな手をぎゅっと握った。
　真央はかねてから仲が良かった海美と一緒に食べ物屋台制覇を目指し、片っ端から食べ物の気配がする屋台に乗りこんでいるのだった。
　既に縁日おなじみの屋台には顔を出しており、粉物はコンプリート済み。沢山食べられるように、服装はラフにまとめてきてある。
「さあ海美ちゃん、今度は一緒に綿菓子食べるのだ！」
「ま、まおちゃん、わたしまだお腹苦しいよ」
　元気いっぱいの真央に連れられた海美は、金魚柄の浴衣姿で履き慣れない下駄をからころ鳴らし、あとに続く。
「なんと！　それじゃあ、進路を変更するのだ。んーと、あのお店にするのだ。あそこなら、海美ちゃんも退屈せずゆっくり食休みできるのだ」
　そう云って真央が指差した屋台は、縁日の隅、ひっそりとたたずむお面屋だった。くるりと振り向いた海美は、その品物の多さに目を見張る。
「うわあすごい！　お面がいっぱい！」
　今度は海美が真央の手を引くような形で、ずんずんとお店の前に近づいてゆく。
「いらっしゃい。姉妹で縁日かい？」
　絶えず口角を上げている店主が、そう声をかけてくる。
「まおちゃんはお友だちなんです。ネコナデ仲間！」
「ほお。そうだったのかい、仲がいいねえ」
「すごい数のお面なのだ！　おじさん、写真撮っていいのだ？」
　店主が頷いたのをみて、真央はデジカメでお面の山を撮り始めた。
　海美はゆっくり歩きながらお面を見て回る。
　それを少し離れたところから羨ましそうに眺めているのは大きなメガネをかけた小柄な少年、日暮朝人である。
（いいなあ……僕も、本当なら兄さんと……）

　鳥居の前で兄を待っていた朝人は、メールを見て肩を落とした。
　用事が入って約束していた縁日は一緒に回れないという、兄からの謝罪メールだったのだ。
「店番なら、しかたないよね」
　溜息をついても、がっかりとした気持ちはなかなか元には戻らない。しかし、ここまで来たのに大人しく帰るのもなんだか悲しい気がした。
　朝人はおそるおそる鳥居の中に足を踏み入れた。
「ちらっと見て、帰ろう……」
　そのつもりだったのに、人並に流れ流れされて、おのずと人のいない隅の屋台に辿り着いたのだった。
　おびただしい数のお面に囲まれた店主の笑顔が何故だか恐ろしく、朝人はすぐにきびすを返そうとした。
　しかしその時、見つけてしまったのだ。店主の顔のすぐそばにある、羊のマスコットのお面を。
（兄さんの好きな羊だ）
　ふらりと屋台に近づくと、店主と目が合った。反射的に肩がはねあがる。逃げだしたい気持ちを抑え、朝人は兄のためだと口を開いた。
「あ、あの、すいません」
「はい。いらっしゃい」
「あの、えっと……その、笑ってる羊のお面、ください」
「これかな？」
　店主は傍にある羊マスコットの面を指差す。朝人が小銭を差し出しながら頷くと、「まいど」とお面を渡してくれた。
　にっこり笑った羊を手に入れ、ほっと一息ついて帰ろうとしていたところで、真央と海美を見つけたのだ。

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