●夏とスイカと、騒がしい面々


　改めて本日の勉強会の参加者を紹介しよう。

夏休みの宿題勉強会 参加者一覧

【小学生】
■2年生
劉 瑞麗

■3年生
曖浜 瑠樹/花月 勝治郎/椎名 あさひ/夢月 姫

■4年生
エルカディア・シュルツ/宮越 裕司/結緑 一色

■5年生
霧生 穂月/赤銅 スフィア/樹弥・エヴァンズ

【中学生】
■1年生
霧生 里桜/雲見 充

■2年生
赤羽 勇樹/加藤 戦乙女/月守 輝夜/鍋島 奈々美/猫屋敷 姫/畑 そふと（NPC）

■3年生
新江 天懸/三上 塁


　総勢21名である。



「えーマジー宿題やってないー？　キモーイ！」
　可愛らしい声で煽るのは、猫屋敷 姫である。

　*同じ名前の方がいらっしゃるので、今回は今後猫屋敷 姫さんを『猫姫』、夢月 姫さんを『夢姫』と表記させて頂きます、ご了承くださいませ

「忘れてるんやのうて、やってないんや！」
「そこ！　威張れるトコじゃないのですよ？」
　ドヤ顔の鍋島 奈々美には、どこから出したのかは突っ込み不要のピコハンで突っ込んで。
「むぐぐ……」
　小さくなって、うな垂れる奈々美。
「宿題忘れが許されるのは、小学生までよねー！　小学生の皆々様、こんな先輩になっちゃ駄目ですー？」
「そう言うあんたは、当然終わってるんよね？」
「当然なのです！　舐めてもらっては困るです、夏休み始めに終わらせたです」
　偉そうにふんぞり返ってみるものの、何だかんだで貴重な一日を潰して駆けつけるあたり、本当は人がいいのかもしれない。
「キャハハハハ！　せっかく集まったですし、今日は皆終わらせて帰るですよ。
　私も答えは教えませんが、解き方は教えてあげますよー」
　高らかに笑うと、猫姫は牛乳を呷った。

　猫姫はよく、牛乳を飲んでいる。
　戦乙女の勢いには負けるが、ツインテール美少女の猫姫は自分の容姿に、自信を持っている。
　低身長の割りに豊満という、完璧な美少女っぷり。それも悪くないけれど、欲張ってみたいのが乙女心。
　そこで、牛乳なのだ。
　今のところ、効果はあまり現れる気配が無いけれど。
　……身長には。

　同い年の月守 輝夜は、牛乳を呷る猫姫をチラ見して、そっと自らの胸を見下ろした。
　薄着になる夏は、年頃の少女達には、いくばくかの羞恥心が伴う。
　華奢な輝夜は、豊満な奈々美や猫姫が羨ましかった。
（私も、牛乳飲もうかな……）

　そんな輝夜の羨望の眼差しには気付かず、猫姫は相変わらず尊大な態度で、集まった面々を前に持論を展開していた。
「勉強は計画的に、なのです！　45分の集中と、15分の休憩を入れると良いと聞いているです。
　また、集中力をつける為に、餌で釣るというのもありです。
　例えば……テスト満点だったら、晩御飯はステーキとか、ゲーム買って貰うとか。
　宿題終わったら、遊びに行こうとか友達を誘うとかで？　そんな感じ」
「あんま、ベンキョーベンキョーで楽しみもお預けじゃ、勉強キライになっちゃうしな！」
　スカート男子の結緑 一色が、今度はテーブルまでスイカを運びながら笑う。
　瑞々しく冷えたスイカは実が詰まって、いかにも重そうだ。
「もう出しちゃうです！？」
　驚愕する猫姫を前に、一色はスイカを一切れ取ると悠然と頬張った。
「腹が減っては戦は出来ぬって言うじゃん？　おー、甘くてチョー美味いな！」
　どうでも良いけど、乱暴な台詞とプリチーな外見がミスマッチで、罪な感じです。

「хорошо！　甘くておいしそう！　里桜も食べたいな～」
　甘いもの好きは遺伝だろうか。おねだりする霧生 里桜に、そふとは頷く。
「えへへ、ありがと。おいしい♪」
「皆も遠慮なくどうぞ、食いながらやろうぜ」
「私も頂きますね」
　月守 輝夜もお礼を言うと、スイカを手にする。
　大ぶりのカットに、一寸躊躇したものの、思い切って齧りつけば、優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「美味しい」
「あ、スイカはね、わたしの可愛い顔を見て食べれば、いつもの数倍美味しいよ！」
　すかさず加藤 戦乙女が自己主張して、皆を苦笑させる微笑ましい一幕もあったが。

「にしても、エアコンないのは予想外だけど、自然が多いからか案外涼しくてよかったぁ」
　里桜の隣をちゃっかりキープして、胸を撫で下ろすのは元気印の５年生、霧生 穂月。
　初恋の相手である里桜を、変な所へ連れて来たとあっては、男の名折れだから。
（誘っといて最悪なところに連れてきたら、取り返しつかないからね。みつをはどうでもいいとして）
　ちなみに『みつを』とは――里桜を挟んで座る、雲見 充である。

「ウホッ！　いいスイカ……」
　穂月の腹の内など露知らず、ちょっとアレな台詞を口にしながら、充は元気にスイカに手を伸ばす。
「やっぱり夏といえば、スイカだよね－！　えへへ、いただきま～す」
　ああそうそう、と充は鞄をゴソゴソ。
「じゃじゃーん、塩と砂糖とシナモン持ってきた！」
「砂糖？　シナモン！？」
　これにはカメラを構えた女子二人も、吃驚。
「シナモンなんて、初めて聞くけど……美味しいのぉ？」
　きょとんとする椎名 あさひに、自信満々に頷く充。
「好きなのかけて食べよ～！　僕は食べ比べするの」
「ほえ～、確かにスイーツにはシナモンは合うかもしれへんけど……斬新やな。でも、断然うちは塩派や！」
　スイカ派閥を調査し始める鍋島 奈々美の横で、充は３種類のフレーバーを順に楽しんでいる。
「うーん、どれもおいしい！！」

「スイカおれにもくれよ……じゃなくて、おれにもください！」
　花月 勝治郎は律儀に言い直すと、白い歯を見せる。
「へへっ、人にお願いする時は、ちゃんと丁寧に言うようにって、いっつもかーちゃんに言われてるんだ」
「偉い偉い」
　三上 塁がすかさず誉めれば、勝治郎の頬は益々緩む。
「うめー！　すんごく甘い！　庭に種まいたら来年も生えてくるかな？　……よーし！」
　縁側に出た勝治郎は、早速スイカの種を飛ばし始めた。
　黒い種は綺麗な放物線を描いて、木陰に落ちる。
「おっし！　たくさん飛んだぜ！！」

「オレも食べる食べるー」
　曖浜 瑠樹もスイカを持って、縁側に出る。
　赤い果実を頬張っては、ほっこりする瑠樹だが、ちっとも種を吐き出さない。
「なあ、種は？」
　勝治郎が尋ねれば
「種？　飲んじゃったよぉ」
　あっけらかんと、そう答えた。
「ええー、飲んじゃってイイのか！？　腹の中から、芽が出たりしない？」
「う～ん？　オレも ずっとお母さんの真似して飲んでたけどぉ、芽が出たことはないよぉ？
　……皮も食べてみようかなぁ？」
「皮！？」
　仰天する勝治郎に、新江 天懸もスイカを齧りながら「ヘーキだろ」と呟いた。
「そうなんだ？」
「ああ。スイカの原種は、果実は不味くて食えたモンじゃなかったから、昔の人は種を炒ったり、皮を漬物にして食ってたんだそうだぜ」
　幼い頃に学者の父から聞いたことを思い出し、天懸は少しむしゃくしゃして、残りのスイカを一気に頬張った。
「スゲーな、兄ちゃん！　物知りだな、カッコイイ！！」
　番長ヒーローに憧れる勝治郎は、無邪気に尊敬の眼差しを向けていたが、天懸は「そんなんじゃねえよ」と切り伏せた。
「硬くって、あんまり美味しくないねぇ」
「って、ホントに食ったのかよ」
　皮に残った小さな歯形に、流石の天懸も口の端に笑いが漏れた。

「るいりもやる」
　仲良く種飛ばしをする皆に好奇心をくすぐられて、劉 瑞麗も持て余し気味の大きな一切れを掴むと、勝治郎の隣に並んだ。
「はむ……しゃくしゃく、好吃！」
　とろける笑顔を見せると、真似をして庭に種を飛ばす。
　ところが瑞麗の気合とは裏腹に、種は垂直に落下して蟻達を驚かせた。
「アイヤー……失敗、難しい」