TOP！～Men's Valentine's Day～｜リアクション

TOP！～Men's Valentine's Day～

　バスの車窓から星ヶ丘の街並みを楽しんだ雨崎荒太郎と西野町かなえは意図せずステラ・デッラ・コリーナへやってきた。

　そして二階のショッピングスペースへ向かう。
「ほんま、見てるだけでも楽しいな～」
「そうだね」
　普段見るような馴染みの店とは違う雰囲気を楽しむ荒太郎とかなえ。
　荒太郎は、はしゃぎながらも、いつもよりも少しだけ緊張しているかなえの横顔を眺めながら、ウィンドウショッピングを楽しんでいた。
　そんな時、ａｔｔｉｔｕｄｅ～ｐｅｔｉｔ～の看板が目に入った。
「お、ここで買い物するとレストランで割引だって。寄ってみる？」
　高級レストランでのお食事なんて、高校生の二人にはなかなか縁がない。
「うん！」
　かなえは迷わず二つ返事で荒太郎の手を取る。
　胸を躍らせ、二人は店の中に足を踏み入れた。
　が。
（ってここ下着店じゃーん！）
　入ってすぐに荒太郎は閉口した。
　いくら荒太郎が女系家族出身で下着は見慣れてるとはいえ……ランジェリーには興味深々！
　ほんのちょっとの恥ずかしさはあるが、未知に対する好奇心がムクムクと膨らんでいく。
　そうして辺りの未知を観察しながら、荒太郎は掛けている鞄をギュッと手繰り寄せた。
　普段は手ぶらの彼が、珍しく持ってきた鞄。
　その中には――かなえへの、プレゼントが入っていた。
（もうプレゼントは用意してるけど……）
　チラリと荒太郎はかなえの横顔を覗き見る。少し頬が赤く見えるが「これなんて、めっちゃ『オトナ』って感じやな！」とはしゃいでいた。
　……正直可愛い、と思う。
　そんな彼女をもっと喜ばせることができるならば――

「サイズ測ってもらえるって。せっかくだからプレゼントするよー」
　突然の荒太郎の申し出に、かなえは目を大きく見開いた。
「え、こーたん買ってくれるん？」
「うん！」
　気負うことなく荒太郎は言うが、値段を見てかなえは尻込みする。
「学割だしいい機会だから、ねっ」
　荒太郎は笑顔を浮かべるが、かなえが笑顔を返すまで、一瞬間が開いた。
（プレゼントしてくれんのは嬉しいんやけど……）
『やけど』の先は、複雑で繊細なオトメゴコロというやつだ。
（初めてのプレゼントが下着、かぁ……）
　不満というほど明確な感情でもなく、ただ、手放しで喜ぶには何か小骨がのようなものが胸に刺さって抜けないのだ。
「……わーい♪」
　荒太郎に突っ込まれる前に、すぐにかなえは笑顔でつくろったが、小さな骨は、依然としてかなえの中に残っていた。
「じゃあ、サイズ測ってもろてくるね！」
　そうしてかなえは、荒太郎を置いて計測に向かった。
　そこで、かなえは驚愕の事実を知る。

「前から外すのこれ？　珍しい形もあるんだなぁ」
　測定を終えて店内へ戻ると、荒太郎がなにやら店員さんに質問をしている。かすかに聞こえてきた内容は……こっそり聞いてしまうにしては、照れくさい内容だ。
「……お待たせ！」
　会話の内容には触れず、かなえは満面の笑みで荒太郎に声を掛けた。
「うん」
　荒太郎も何事もなかったような笑顔でかなえを迎えてくれる。
「えっと、測ってきた？」
　恥じらいを感じない、無邪気な問いかけだった
　それに対するかなえの答えは――
「……うん！　カップのサイズ上がってた！」
「ふふふふーん、さっすが成長期やでぇ！」
　大きく成長した胸を強調するように、かなえはドーンと胸を張ってみせた。
　その報告を聞いて、荒太郎は、
「おお、日頃の努力のおかげかな！」
　えへへ、と照れくさそうに笑いながら、かなえの頭を撫でて褒めてくれた。
「わーい♪」
　その後、荒太郎の視線が、いつもよりかなえの胸元に向けられたような気がした。
　ただ今日ばかりは、それも、気がついていないふりをしてあげる。