TOP！～Men's Valentine's Day～｜リアクション

TOP！～Men's Valentine's Day～

　メンズバレンタインデー。
　今まで聞いたこともなかったが、誰がどう考えても、バレンタインデーにあやかって作られた日である。
　この企画が流行らなかった原因はいくつかあるだろう。
　まず一に、男から女に告白するのは普通じゃないのか、ということ。
　バレンタインデーに女から男へ告白するという風習が根付いたのも、日本では、男から告白する常識が数十年前はあったからだ。
　その点を考慮すれば、わざわざ男から女に告白をする日など、『特別』にはなりえなかった。
　次に下着メーカーが下着を売りたいという魂胆見え見えだ、ということ。
　購入者層を増やしたい、流行り廃りがこれといってない下着ゆえに購入してもらえる機会を増やしたい、利益を増やしたい。
　つまるところ、そういうことだろう。
　バレンタインデーのチョコレートも、企業の策略が見え見えではあるが――ではなぜバレンタインデーは成功して、メンズバレンタインデーは失敗に終わったのか。
　それこそ、簡単な事だ。
　そもそも女に下着を贈るのはハードルが高い。
　一人で買い物に行くにしても、贈る相手を連れ添って買いに行くにしても、だ。既に親密でなければ、贈る事自体が難しい。これこそ、最も大きな原因だろう。
　親しくなければ、あるいは親しくとも、この奇抜なプレゼントが原因となって、セプテンバー・バレンタインデーになることも十分に考えられる。

――と、そんな考察を旅鴉月詠はしてみた。
　その上で、月詠は『プレゼント』を大量に準備した。大量に、だ。
　曰く、『最近は逆バレンタインなんてものもあるので逆メンズバレンタインをやってみました』的なことらしい。
「……さてと、どこに行こうかな」
　月詠はおもむろに立ち上がり、寮を後にする。

　ステラ・デッラ・コリーナの二階には、思わず足を止めてしなうようなショーウインドウがいくつもある。
　あるいは星を思わせる宝石、あるいは映画のワンシーンのようなサロン、あるいは息を呑むような純白のウエディングドレス。
（……私も、こういうの）
　思惑通り、深十依瑠佳は、思わず足を止めてしまった。
（ああ、でも今日はそうじゃないんだ……！）
　瑠佳は首を振って、ドレスの隣に視線を移す。
　隣のお店は【ａｔｔｉｔｕｄｅ～ｐｅｔｉｔ～】。このドレスショップの系列の下着店だった。
（今日はイベントで安いらしいし、）
　そうして瑠佳は、恐る恐るお店の中へ足を踏み入れる。
　踏み入れて、１歩、２歩、３歩。そこで、ああもう無理だ、と瑠佳は足を止める。
「だ、駄目だ……」
　駄目だ駄目だと口にしながら、瑠佳は近くに展示してある１枚のショーツを手に取る。
「これなんてとてもセクシーで可愛くて好きだけどっ！」
　繊細な黒のレースが幾重にも重なったショーツ。
「でも、でも……！」
　大人っぽいというより、アダルティという横文字が似合うようなショーツ。
「こんなすけすけのを穿いてたら……」
　ところどころ透けているショーツ。
「見られた時、絶対にバレる……！」
　瑠佳には、難度が高過ぎる。
　いくら女装が基本でも。どこからどうみても美少女でも。女の子になりたくても。
　見えたら、バレる。
「お客様」
「は、はいっ！」
　そんな葛藤の最中、瑠佳は店員に声を掛けられた。
「恐れ入りますが、さいすんはなさいましたか？」
　さいすん。
　変換。
　採寸。
（それ、駄目、絶対！！）
　このお店はオーダーメイド（採寸必須）。
　それを知った瑠佳は、脱兎のごとく逃げていった。

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