TOP！～Men's Valentine's Day～｜リアクション

TOP！～Men's Valentine's Day～

　合流した常闇月と八神修。
「……そういえば先ほどこのようなものを頂きましたが」
　と月は、富士山権蔵から受け取ったチラシを見せ、
「……実は俺も」
　と、飛吹蓮太郎と会ったことを話していく。
　そんな話をしたせいか、自然と会話は下着が話題になっていた。
「その、殿方というのは意中の相手に自分の選んだ下着を身に着けて欲しいと思いますか？」
「意中の相手に下着ね。……俺はそうでもないな」
　返ってきた答えを聞いても、月は安堵もしなければ落胆もしない。
「なんというか……触れてはいけない聖域と言うかタブーというか。だから友人に褌を渡された時は戸惑ったよ」
　けれど、何故か修の言葉は表面だけしか聞こえてこない。つるりと滑って通り抜けていく。
「たとえば八神さんにとってのあの方、とか……」
「だから！」
「…………変なことを伺いましたね。忘れてください」
　そんな月の変化に気がついたのだろう。修は一瞬、赤面したものの、すぐに目を細め、優しく語りかけるような口調で話しだした。
「けど、そうだな。その人が欲しがってるなら下着も悪くないと思うよ。常闇はどうだ？」
　わずかにからかうような色も滲む。
「……私は」
　答えに困っていると、修が「そうだ」と声を上げる。
「女性の下着を買いに行きたいんだが、選んでもらえないか？」
　タブーと言っていた修が、いたずらっぽく笑う。
　その真意はわからなかったが、
「……わかりました」
　と月は頷いた。

　てくてく歩いていると、ああ、なんだ目の前に居るのは知り合いではないか。
　ということで、旅鴉月詠は用意しておいたプレゼントを取り出し――声を掛ける前に、月が振り向いた。
「……旅鴉さんでしたか」
「どうも、ユエ。八神」
　遅れて修も月詠に気がつき、振り返った。
「旅鴉か。偶然だな」
「まぁ」
　偶然といえば偶然だが、知り合いを探していたわけなので、月詠は言葉を濁す。
　それよりも本題だ。
「ユエ。これプレゼントだ」
「私に、ですか？」
「八神にも」
「俺にまで？」
　ハテナマークを浮かべる月と修に対し、月詠は言い切った。
「逆メンズバレンタインデーだから」
　それから売り文句を並べていった
「メリノウール１００％使用であったかふわふわの一品。
　セクシーさは薄れるが寒い時期に入ってくるから、下着というよりは本来のパンツの上に履くアンダーウェアだね」
「なるほど、だが、」
　所詮毛糸のパンツ。うら若き高校生にはちょっと。そんな否定の香りを感じて、月詠は、切り返す。
「毛糸のパンツだなんてと馬鹿にする者もいるが特に女性には冷え性の対策にもなる。
　縁はゴムで作ってフィットするようにきめにつくってあるのでパジャマの上からでも履けるし、
　デザインはメンズは青基調、レディースは赤基調の縞々と使いやすいものだ」
　と言ってから。
「ハート付もあるが、そっちにするか？」
「……いや」
「……ではやましい感情は全然ないから実用にお一つどうぞ」
　二人が受け取ったのを確認すると、月詠は、またてくてくと歩き出した。