TOP！～Men's Valentine's Day～｜リアクション

TOP！～Men's Valentine's Day～

　最上るるかと桃川圭花は二人で狭い試着室に入って、なんだかんだ言い合いながら服を脱ぎ始めた。
「それにしても圭花ってばスタイルいいね」
　るるかに背中を向ける圭花。その背中はしなやかで、運動をしている人のようなけれど女性らしい曲線のあるものだ。
（えいって後ろから抱きついて胸さわったら怒るかな？）
　怒るかな？　と相手の反応を想像しながら、実際に行動に移してしまうくらい、るるかは圭花の照れ怒りは嫌いじゃない。
「ってちょっと、何してるの！？」
「気にしない気にしない！　女の子同士なんだから！」
　想像通り実際圭花は怒ったが、でも怒りながらもなんだかんだ許してくれる。
　逆を言えば許してもらえないことは、るるかがしないから、かもしれないが。
　そうして愛を育みながら、着替えていると、唐突に圭花が呟いた。
「私のいいとこってどのへんなの？」
　あまりにも唐突過ぎてるるかは首をかしげるが、『間が開いた』と思うほど開かない内に、聞き返した。
「圭花の好きな所？」
　聞き返すと、圭花が『しまった』というような顔を浮かべる。ああ、口にだすつもりはなかったらしい。
　でも聞かなかったことには今更できなかった。
「うーん、いきなり聞かれても沢山ありすぎて」
　だからるるかは思ったことを一つ一つ並べていくことにする。
「沢山ある？」
　驚きと不信感のようなものが滲んだ言葉だった。
「そうだよ！　カワイイしセンスもいいし……」
「そう言ってもらえると、嬉しいわね」
　次の言葉は、いつもと同じく少しだけ斜に構えた感じ。
「でもねー、一番はかっこいいトコロ。
　見た目は不真面目。でもホントは頑固な頑張り屋。
　なんにだって手を抜かない……、
　そーゆーしたたかでしなやかな強さに憧れてたの」
　自分の中でもまだ整理しきっていない言葉だったけれど、少しでも、一つでも圭花の胸に響く言葉があればいい。と、るるかは思った。

　鮮やかな髪に、女の子らしい仕草。
　ネコフェスで見た、演奏。
　それは昔からやってるって感じじゃなくて……だからすごく練習して、ものにしたのが分かる。
　素直に人を好きになれるのと同じ、そういうまっすぐな性格だって言うのが、よく分かる。
　そんな全部持ってる彼女が、私のどこに興味があるの？
　るるかにとって、私のいいとこってどのへんなの？

――思いの一部が口に出てしまって、正直焦った。
　でも口にして、良かったと思うような言葉が返ってきた。
「そーゆーしたたかでしなやかな強さに憧れてたの」
　ああ、いいんだ。したたかで。
　るるかの言葉を聞いて、圭花はフッと笑いがこみ上げてきた。
「圭花？」
　それは一瞬のこと。すぐに落ち着いて、圭花はるるかにお願いをする。
「ね、背中、留めてくれない？　コルセットってよく分かんなくて」
「おっけー任せて！」
　そうして、圭花は、言葉通りるるかに背中を預けた。
　レースを編み上げると、身体が締め付けられていくのがわかる。
　ちょっと苦しかった。
　そんな圭花に息をつかせるように、るるかが声を掛ける。
「ねえ、こっちからも質問」
「何？」
「あたし達、もう親友だよね？」
　口ばっかりの親友なんて……と思ったこともある。
　でも。
「……そうね」
　口だけでも、親友って良いものかもしれないと思うこともある。
「わーい！　一緒に写メろ！」
「ちょっとこんなところで！？」
　慌てる圭花に抱きついて、るるかは写真を撮る。
（まだこの距離感には慣れないけど）
　やっぱり圭花にはシンデレラは似合わないけど……、でもそれでいいじゃない。
　誰かの助けを待って、嘆くなんてらしくないしね。