ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～MOCONUと暮らそう｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～MOCONUと暮らそう

【旅鴉月詠の場合】

　今日で、一週間。
「これまで私は、君の『機能』を、使おうとはしなかった。それは何故だと思うね？」
　椅子へゆったりと腰掛けた月詠は、テーブルの上にちょこんと乗った、雪のように真っ白なMOCONUへ、静かに語りかけます。
　一週間。確かに月詠は、MOCONUに備わっているというそれらの機能を、一度も試してみることはありませんでした。
　もちろんMOCONU自身に、ご主人様がなぜ自分のそんな機能を使わないのか、理解できるはずもありません。そもそも、気にもしていないのかも知れませんけれど。
　月詠は、真っ直ぐに見つめながら。ゆっくりと、MOCONUへ諭すように話します。
「『喜びも、怒りも、悲しみも。楽しさも。その全てを背負って、生きていく。全てのモノが、キミになる』……過去の積み重ねが、人や物を形作っていく。私も。君も」
　歴史に学べ、と良く言われます。
　月詠は、思うのです。人生とは、生命の歴史。その人自身が歩んできた、歴史そのものなのだ、と。
　歩んできた過去があるからこそ、人は省みて、それを道標に、未来を見据えることもできるのです。
「だから。辛い思い出、拭いたい過去……それらを軽々しく無かったことにしては、いけないのだよ」
　過去を全て無くしてしまったら。自分が一体どこにいるのか、どうやって知るというのでしょうか。どこを歩いているのか、どっちへ行けばいいのか。どうやって知ればいいのでしょうか。
　きっと、道に迷ってしまうはずなのです。
　分かるかい？　と、語る月詠をじっと見返しながら。MOCONUはただ、くりっ、と身体を傾けて見せるのみです。

　とはいえ。
「ま……これはただの、戯言。解釈の一つというやつだよ」
　くだらない過去、引き摺っていてもロクなことにはならないような思い出というものも、中にはあると、月詠は言います。
　これという信念は持ちながらも、時には柔軟に。全ては、ケースバイケースというやつなのです。
「結局のところ、気休め。人をその気にさせるだけに過ぎない……」
　ああ、そういえば、と。月詠は急に思い立ったように、ぱん、と手を合わせて言いました。
「私は君を、ここまでその機能を使うことなく、あくまでこの部屋の同居人として扱ってきた。それなりに楽しかったよ……だからこそ。今の私には、不幸な出来事が、一つある」
　常にクールでマイペースな月詠がふいに見せた、少しばかりの感傷。
「それは、『君に出会ってしまったこと』。出会わなければ、別れが生まれることも無い。そう、こうして君と過ごす時間を失うことは、私にとって、確かに不幸なことのようだよ」
　詭弁であると、月詠自身も、分かってはいるのです。
　それでも。出会ったことそのものが不幸だったとは、思いたくないから。
「というわけで。さあ。別れの不幸を、幸へと代えてくれ」
　月詠はそっと、赤い瞳を閉じました。

「……うん。満ち足りた。ありがとう……さようなら、モコヌ。君たちの歴史に、幸あれかし」

　視線の先に見据えているのは、一体、誰なのでしょうか。
『日進月歩。技術が消費される時代と、人は言う。しかし、その礎となった者たちの積み重ねた過去を無くして、現在は無いのだ。全ては、決して、無駄ではない……それだけは、覚えておいてほしい』
　暗い部屋の中。ひび割れた壁から差し込む月明かり。古びたブラウン管のテレビ画面の中、次第に寄っていくカメラが映し出す月詠の顔を、しばし、じっと覗き込んでから。
　くりんっ、と唐突に振り返ると、胡乱路秘子は、んふふ！
「ここで、番組へ届いた、視聴者からのお手紙を紹介したいと思います。ペンネーム、『プリン大好きっ子』さんから」
　にゅ、と、唐突に暗がりから生えてきた一枚のカンペを手に、秘子はそれを読み上げます。
「『秘子ちゃん、こんばんは！　萎れてしまったプリン色の可愛いモコヌは、今では、ロボット掃除機のカバーに大変身！　まだまだ元気に動き回ってくれています♪　ところで秘子ちゃんは、子供の頃から大事にしてる玩具とか、ありますか？』。んふふ、お手紙ありがとう。そうですね～……」
　秘子が人差し指をあごに当てて、んーっ、と考え込んでおりますと。
　かたかた、かたん。きらびやかなメッキのボディを揺らしながら、かたかたと秘子の目の前を横切っていく、ブリキのロボット。
　その後に続いてやってくるのは、たくさんの、ゼンマイでゆっくりと走る車たち。何台かのトラックたちの荷台には、可愛らしいぬいぐるみたちや、おもちゃのピアノに、クッキングトイに変身セットに。色とりどりのよりどりみどり、バリエーションも豊富なおもちゃたちが、ぎっしりと積まれています。
　別の車では、小さな楽団員たちが、ぶかぶかどんちゃん。行進に合わせて、賑やかなマーチを奏でています。
　秘子は、しばし。おもちゃたちのパレードが通り過ぎていくのを、思案顔で、じいっ……と見つめておりましたが。
　やがて、
「大好きだったおもちゃは、たくさんあったはずなのですけれど。なぜか、大事に大事に……と思うほど、すぐに壊れてしまったり、失くしてしまうのですよね。んふふっ、不思議ですね」
　どこからか、ぴょんっと肩に飛び乗ってきた赤いMOCONUを、さらり、ひと撫で。
　秘子は、にんまり。微笑みました。

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
ファンレターはマスターページから！

　みなさま、お疲れさまでした！　『ミッドナイト・フリーキー・ショウ』、第三夜のリアクションをお届けいたします～。

　今回、MOCONUのイラストなど用意させていただいたのですが、どうやらちゃんと可愛いと思っていただけていたようで……墨谷、ほっと一安心。

　可愛らしいけれど、それはれっきとした『商品』であり、『使用期限』なんてものまでありまして。
　そんな、ちょっぴり切ない不条理さを背負ったMOCONUたちでしたが、皆さんには愛情いっぱい可愛がっていただけたようで、良かったです。
　できることなら、短い時間を共に過ごしたMOCONUたちのことを、これからも忘れないでいてあげていただけましたら、幸いです。

　それでは、今回は、ご参加ありがとうございました～！
　またの機会にお目にかかれますことを、心よりお待ちしておりますっ。

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