ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～MOCONUと暮らそう｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～MOCONUと暮らそう

【恵御納夏朝の場合】

　もしかしたら……と。同梱の説明書を読んだとき、夏朝の脳裏に閃いた、とあるアイディア。
　うまくいくかどうかは分かりません。けれど、もしそれがうまくいったなら、その時こそ。恐ろしい過去、その一端が自分へとのしかかってくるという、確信めいた予感だけが、夏朝にはありました。
　優しい深緑色の毛に包まれたMOCONUを、夏朝はじっと見つめます。いかにも愛らしい、何の悪意も持たず純粋そうな、不思議な何か。
　夏朝には、消したい思い出も、変えたい過去も、特にはありません。
　ただ、彼女はどうしても、知りたかったのです。忘れてしまっているらしい、その記憶を。
「……ただし……忘れていた辛い過去の記憶を、掘り起こされてしまうことがあります……」
　口に出して、もう一度それを読み上げます。
「お願いね……？　MOCONUちゃん」
　薄っぺらい紙切れを置き、MOCONUの毛並みを柔らかく撫でつけながら。既に夏朝は、それを試すことを、心に決めていました。

「わああ……猫さんが、猫さんがたくさん……！」
　寝子島は、たくさんの猫たちが暮らす島。それはもちろん、島の名前にもあるとおりなのですけれど。
　白猫黒猫、ぶちに三毛にトラ猫に、種類もいろいろ。今、夏朝を取り囲んでいる猫たちときたら、あたりを埋め尽くさんばかりの、ちょっともう、ものすごい数でありました。
　手には猫型パペットを常備。趣味は猫グッズ収集、探して買い集めるのはもちろん、自分でもグッズを作ってしまうという、猫大好きな夏朝のこと。
「あっ、こ、子猫さんもいる……！　親子猫さんだー……！」
　寄り添って寝そべる仲睦まじい親子の三毛猫の姿に、弾ける満面の笑顔を浮かべ、瞳をきらきらと輝かせています。
　それに、この猫さんたち、ものすごく人懐こいのです。次から次へと現れては、入れ代わり立ち代り、夏朝へ擦り寄ったり、ぺろりと指先を舐めたり、膝の上に飛び乗ってきたりするのです。
「柔らかくて、暖かくて……ああ、幸せ……」
　猫たちの体温に包まれて、夏朝はぬくぬく。思う存分猫たちの中に埋もれた記憶は、夏朝にとって幸せな、とても大事な思い出になったのでした。

　けれど。
　そんな、愛して止まない猫たちとの、触れ合いの記憶も。全ては、この時のため。
（……これは……僕が、中学の時）
　今や、脳裏にまざまざと思い浮かべることのできる、その光景。
　下卑た顔で自分を嘲笑う、同級生たちのグループ。
（そう、僕は……）
　その日は確か、靴を誰かに隠されました。前日は、いつのまにかお弁当が無くなっていました。
　どうしても貸して欲しい、必ず返すから。そんな風に言われて貸したものが、結局戻ってこないなんてことは、しょっちゅうでした。
　他愛の無いことで、ひどくからかわれたり。馬鹿にされたり。キツいことを言われたり、つっかかられたり。
　再び蘇ってきた、あの頃の記憶。きっと思い出したくないから、忘れていたかったから、心の奥底へ固く閉じ込めてしまっていたのだろう、中学生１年生の頃の、夏朝の日常。
　けれど。
　ああ、けれど。
　違うのです。一つだけ。
　歪んだ顔の苛めっ子たち、それに自分が身につけている制服が、違うのです。かつて夏朝が通っていた中学校のそれとは違う、どこか、別の学校の……。
（……ああ。これ……この制服。見たことがある……一度だけ、僕は、見たことがある……！）
　それは、狐が見せた、遠い幻。
　もう一人の夏朝。そう、それは、冷徹な……。

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