ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～MOCONUと暮らそう｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～MOCONUと暮らそう

【志波拓郎の場合】

　拓郎には、二人の兄がいます。男前でサバサバとした長男、弟である拓郎を溺愛する面倒見の良い次男。
　二人の兄たちに、何かと振り回されがちだった拓郎の、幼い頃の思い出。それらは必ずしも楽しいことばかりではなく、何かと厄介な面倒ごとに巻き込まれてしまったという記憶も、少なくなかったりします。
　そんな彼の元へ、突然やってきたMOCONU。説明書を読んでみますと、何と、そんな昔のツラーい記憶を、楽しい記憶に変えてくれるというのです。
　オレンジ色のもふもふを、拓郎はまじまじと眺めます。
　そんなことが、できるのでしょうか？　誰にでもあるような、イヤな思い出。消してしまいたいほどの、辛い過去。そんなものを、本当に、別の記憶へと変えてしまうことが……？
「……いや……」
　けれど。拓郎は目を伏せると、首を振りました。
　彼は、思うのです。
（忘れてしまったら……許してやることも、できないものな）
　変えられた思い出は、当然、元の記憶とは別のもの。ほかの他愛の無い思い出ならともかく、こと兄たちの記憶を、拓郎は歪めてしまいたくはありませんでした。どんなものであれ、そのままの形で取っておきたかったのです。
　いつか自分自身の力で、辛い思い出も笑い飛ばせてしまえるようになる、その時まで。
「でも……君に、仕事を、させてあげられなくて……ごめん」
　律儀な彼はそんな風に言って、その手腕を発揮させてくれる命令を待つかのように、じっと自分を見上げているMOCONUを、そっと抱き上げます。
「その、かわり……自分と、遊ばないか？」

　オレンジの毛並みをブラッシングしてやると、膝に乗せたMOCONUは気持ち良さそうに、大人しくされるがまま。特に、てっぺんでぴこぴこと揺れている長い毛は、丹念に手入れをしてやります。拓郎の、お気に入りの部分なのです。
　思う存分もふもふしたり、顔をうずめたりして堪能した後は、一緒にお出かけへ。肩に乗ったMOCONUは、拓郎が歩みを進めるたびに移り変わっていく景色に興味津々、といった様子で、あちらこちらを眺めている……ようにも見えました。
　ロープウェイに乗り、九夜山の山頂付近にある展望台へ。
　並んで眼下の寝子島を一望すると、その雄大な景色に見入ったまま、しばしの間、ぼんやりと物思いにふけります。
「……そうだ……彼女に、送ってやろう。後で、小さな、モコヌの編みぐるみ……作ってもらおう」
　可愛いもの好きの恋人の顔を思い浮かべると、拓郎は手すりにそっとMOCONUを乗せてやり、景色と一緒に記念撮影。せっかく自分のところへ、来てくれたのだから。時間いっぱい、たくさんの思い出を残しておこうと、彼は写真を撮りまくることにしました。
　そうして形にしておけば、きっといつまでも忘れず、残しておくことができるはず。過去の記憶を変えてもらわなくとも、一緒に過ごした時間こそが、きっと大切で、幸福な思い出になるはず。
（君が動かなくなったら……その時は。見晴らしの良いところに埋めてあげよう）
　そう決めると、拓郎は再びMOCONUを抱き上げ。ふさふさの気持ちの良い毛の中に、顔を埋めました。

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