ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～MOCONUと暮らそう｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～MOCONUと暮らそう

【橘明里の場合】

「わああああ……！」
　きらきら、目を輝かせながら。明里は、箱の中から自分を見上げる、そのふさふさの毛玉のようなものを、そっと抱き上げます。
　『MOCONU』。とある企業が開発した、画期的な新商品……というふれこみらしいのですけれど。明里は、一緒に入っていた説明書を読むのもそこそこに、柔らかい毛の中にもふっと顔をうずめて、すりすり。目にも鮮やかな黄色い毛並みは、おひさまのような香りがしてとっても気持ちが良く、明里はすっかり、お気に入りのようでありました。
「あかりは今日も、とっても幸せなの！　だって、こんなに可愛いもこぬーちゃんをいただいたんだもの！」
　天真爛漫。いつも明るい笑顔を絶やさない明里、彼女の胸に詰まっているのは、幸せで楽しい記憶ばかり。底抜けの楽観主義は、大抵の小さな悩みなんて、吹き飛ばしてしまうのです。
　一緒に、ひなたぼっこ。心地良い陽光にまどろむ明里、胸にきゅっと抱かれたもこぬーちゃんが、彼女に贈りましたのは……。
「……むにゃ……えへへ、こんなにおっきな、アイスクリーム……たべきれるかなぁ……」
　バケツみたいなビッグな器に、でんっ！　と山盛りのアイスクリームを、ぺろりと平らげ大満足！　ささやかながら幸せいっぱいな記憶が見せる、とっても素敵な夢なのでした。

　けれど。
　目覚めた明里は、はっと思い出すのです。
　あの頃の、過去の記憶。かつて身を寄せていた孤児院。
　そこで毎夜のように繰り返されていた、あの、血みどろの戦いの記憶を！
「……そうだったなの。あたし、あの悪魔と……！」
　孤児院に潜んでいた、悪魔。人間に紛れて孤児院に暮らすそいつは、夜毎に正体を現しては、明里へと襲い掛かるのです。
　なぜ？　それは、明里の正体が、天使だから。天から地上へと落ちてしまった天使は、悪魔にとっては格好の獲物なのです。
　明里は、戦いました。背に一対の翼を抱き、宙を舞い、剣を翻して。夜が来るたび、朝日が昇るまで。繰り返される、悪魔との決闘。時に、ぼろぼろの傷だらけになり、その身を赤く血で染めながらも。
　たった一人で、明里は……戦い続けたのです。
　悪の孤児院。それが彼女にとっての、ただ一つの日常でした。

「……あ」
　再び、明里は目を覚まします。いつの間にやら、うとうとしてしまったようです。
　傍らで、黄色いMOCONUが、すりすり。寝転んだ明里の頬に、柔らかい毛をすり寄せてきます。
　明里は、まだ眠たげな瞳を細めて微笑むと、MOCONUをそっと抱き寄せました。滑らかでふわふわの毛が、やわらかく顔をくすぐります。
　静かな一日。戦いの無い日々。けれど彼女は、あの頃の記憶を、もう一度思い浮かべます。
　ある時、明里は戦いのさなかに頭を強く打ち、気を失ってしまいました。そして再び目が覚めた時、見えたのは、今彼女のいるこの部屋の天井だったのです。以来、明里はこの部屋の主で、通りがかりに彼女を救ってくれたという先輩の元へ身を寄せ、寝子高生としての日常を送っています。
　今は、背中に美しい翼も無く。頭の上には、わっかも浮かんでいないけれど。
　代わりに得たのは、平穏な優しい日常。あの悪魔だって、明里の目の前に現れることは無くなりました。
「でも。あかりは、天使なのー……」
　丸くなって、窓から差し込む暖かい光を、身体中いっぱいに浴びながら、MOCONUと一緒にお昼寝。
　今のこの幸せを、胸に噛み締めながら。明里は再び、まどろみの中へとゆったり、潜り込んでいくのでした。

　いまと過去、現実とまぼろしが交錯する……全ては、夢の中。

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