夏の炬燵（コタツ）｜リアクション

夏の炬燵（コタツ）

「あれ、こたつの虫干し中？」

　通りがかったのは普堂しおり。
　朝からに久夜山で自然観察し、猫鳴館でトイレを借りた彼女。
　礼儀正しくお菓子を置いた後、導かれるようにこの場にやってきた。

　他寮生の彼女、いかにこの状況に的確にふるまう？

「……今、心の故郷に辿り着いたよ～」

　違う！　的確ってのは、そういう意味じゃない！

　一瞬にして卓の上に私物を配置し、座布団を折って枕にする。
　二つ折りにすれば高さも調節でき、ヨダレ垂らしてもばっちいのが気にならないという、ズボラ専用のアイテムだ。

「電気もったいないからスイッチ切ろう。人が入ってれば暖かいもんね」

　手際よく状況を把握し、コタツ周りを洗練させる。優雅に。華麗に。自堕落に。
「泉先生がここで青春時代を謳歌したんだね……」感慨深げなしおり。
　芸術家の泉先生も、雌伏の日々があったはず。
　コタツにうずくまり、世界にはばたく日を夢見ていた夜もあったのか。

「コタツもさびしかったんだよ」しみじみ言うしおり。
　真面目な彼女、コタツライフを極め、グータラしまくることを心に誓う！

「今は夏―。でも炬燵―」上体を出す伸幸。
　しおりの計らいにより、より快適な空間を得た彼。夏の暑さもなんのそののぐだぐだ。
「この時期は炬燵が一番だね～」とんでもないことを口走るしおり。
「あれよねぇ、夏のクーラー効いた部屋で、毛布かぶってぐだぐだしてるのと同じくらいの破壊力あるよねぇ、コタツって」さらりと口にした伸幸の一言。

　瞬間一同の頭に、悪魔の考えが閃いた。

（……クーラーかけてコタツに入るって、気持ちよさそうじゃね？）

　駄目！　そんな地球にやさしくないことを考えちゃ！　

　ドアの隙間からシャム猫が入り込む。

　電源オフのコタツがむしろいい塩梅で、法悦境の解理。

（く、悔しい……負けた……抵抗できない……）

　とろとろメトロン星の使者と化した解理の横を、シャム猫はすたすたと歩み去り、ぐしゃりとワカメ頭を踏みつけ、しおりのそばの布団にうずくまる。

「心頭滅却すれば火もまた涼し」

　かつて織田信長と相まみえた僧侶・快川紹喜はこう残したと言われている。
　中世日本において、快不快は心の動きによるものと喝破されていたのだ。
　このコタツは、直接脳に作用する！
　いやそんな大層なものじゃないけど。
　
　で。
　お願い誰か、この状況をなんとかして！

このページにイラストを設定する