仁義なきアウトレット・ウォーズ｜リアクション

仁義なきアウトレット・ウォーズ

「ねえ、おじいちゃん。何か欲しいもの、ありますか？」

　朝、新聞の折込広告で見つけたバーゲンのフライヤー。赤い背景でおおぜいの招き猫が小判をくわえてアウトレットに突撃していくデザインを見て以来、宮祀智瑜はその日を指折り数えてそわそわと待っていた。

「良い物を、安く！　すてきな響きですっ」

　お小遣いは限られているからあまり思い切った買い物は出来ないかもしれないけれど、バーゲンはきっと味方してくれる。祖父母からリクエストもちゃんと聞いてメモして、いざ勝負！

「わぁ、やっぱりすごい人……！　な、流されないようにしなくっちゃ」

　予想はしていたけれど、くらくらめまいがするほどの人、人、人の波。ぼんやりしていたら目的のお店からはきっと離れてしまう。事前に持っておいたフロアガイドのパンフレットを握りしめ、智瑜は小さく頷いた。

「ええっと、まずはおじいちゃんの……」

　毎朝欠かさず青果市場に行って、たくさんの野菜や果物を運んでくる智瑜の祖父。お店に戻ってからも立ち仕事が続くから、靴や靴下はすぐにぼろぼろになってしまう。そんな祖父がリクエストしたのは夏用の靴下だ。

「そうね、夏はたくさん汗もかくし……通気性のいい素材ってないかな？」

　出来れば丈夫で履きやすくて、それでいておしゃれで……。メンズフロアで男性客に混じりながら、靴下が色々売っているワゴンの前で智瑜は悩む。

「あっ、これはさらさらしてて気持ちいいかも？」

　ふと見れば、綿と麻の混合素材で作られた五本指の靴下が五足セットで売られている。足の指の間は汗をかいたままにしておくと気分がよくないから、夏の間こそこういう靴下が足に良い。色もデニムのようなインディゴブルーやサーモンピンク、紺色と白のボーダー柄と、さりげなくおしゃれの出来るラインナップなのが嬉しい。

「うんうん、いい買い物です！　次はおばあちゃんのお買い物っと」

　祖母も同じように外で日常的に使えるハンカチをというリクエストだった、ちゃんと使えるもの・使いたいものをリクエストするあたり、智瑜との距離感がよくわかる。
　季節柄か、一日使ってもすぐ乾く素材であったり、メイクの上からあぶら取りのように使える素材のハンカチが流行っているようだ。祖母にはどういうものが合うかな楽しく悩みつつ、可愛いものがあれば自分でも欲しいなと智瑜はうきうきしながら品定め。

「やっぱり和柄でしょうか。金魚もかわいいけど、おばあちゃんにはやっぱり……」

　悩みに悩んで最後に選んだのは白地に線香花火の柄がプリントされたガーゼ生地のハンカチだ。ただ可愛いだけじゃなく、ハンカチだからやっぱり清潔感があって、柄もかわいいけれど派手すぎない……そういうものが祖母には似合うと思って。

「あっ、糸も足りないんでした。ええっと、手芸屋さんのフロア……こっちですね」

　大好きな先生のためにいつでも裁縫道具を持ち歩く、ういういしい乙女心。出番がいつあるかわからないからこそ、いつでも万全に準備をしておかなくちゃ。何でも一通り縫える、白、黒、グレーの糸を買って、それから今だからこそうんと安く買える毛糸も何種類か。

「えへへ……」

　さぁ、最後はお店で待っている祖父母にリクエスト以外のおみやげを。スイーツのフロアでは色とりどりの洋菓子や夏限定のアイスが並んで誘惑してくるが、智瑜はまっすぐ和菓子屋さんのコーナーへ。竹筒に入った水羊羹は見た目も涼やかで粋な一品。帰ったら冷蔵庫に入れて、うんと冷やして、熱い煎茶と一緒に縁側で食べよう。夏の一日を、最後は団欒で。

「ふたりとも喜んでくれたらいいなっ」

　人混みに流されまいとがんばりながらも、智瑜の足取りは楽しげだ。