仁義なきアウトレット・ウォーズ｜リアクション

仁義なきアウトレット・ウォーズ

「ひゅー！　バーゲンつっても全然あるじゃん、買うぞー着るぞー！」

　人混みをものともせずうきうきとお目当てのショップに突撃する霧生深雪をにこにこと眺めながら、霧生渚砂がのんびりその後を付いて行く。バーゲンの広告を見つけて一緒に行こうと誘ったのは渚砂のほうだが、どちらかといえば買い物よりも深雪とどこかに遊びに行く口実が欲しかっただけのようで。夏服は何枚あっても困らない！　とテンションうなぎのぼりの深雪は渚砂の思惑などどこ吹く風で次から次へと試着とお買い上げを繰り返している。金というのはあるところにはあるものなのだ。

「（深雪、楽しそうだな……誘ってよかった）」

　ショップの店員と楽しげに話しながら、ドルマンスリーブタイプのユニオンジャックTシャツを鏡の前で身体にあてて見ている深雪のはしゃいだ様子を、渚砂はほほえましく眺める。そりゃあ、買い物買い物で自分をあまり振り返ってくれないのがほんのすこし……いやそれなりに……うん、割りと……寂しくないわけではないが、深雪が心から笑って楽しんでくれているのなら、そんな自分の寂しさなど渚砂にとってはちっぽけなものだから。

「なあ、渚砂！　この帽子可愛くね？」
「おー、似合う似合う。かわいいー」
「じゃあこっちは？」
「うん、いいねー。どっちも買えばいいと思う」

　黒のフェルト生地に同じく黒サテンのリボンを巻いたシンプルながらもロックテイストなポークパイハットと、白地に赤いパイピングが施されたストローハットをそれぞれ手に持ち、深雪は渚砂に感想を求める。が、今まで買ったものも今見ている帽子も、どれも本当に似合うものしか深雪は選ばないのを知っているし、似合うと心から思う渚砂の口からは、深雪にとっては若干張り合いのない言葉しか出てこない。

「んだよ、もっとマシな褒め言葉とかあんだろ？　いや、大喜利じゃねーけど」
「じ、自分なりに正直なつもりなんだけど……！？」
「似合ってるのは知ってるしまあいーや、どっちも買お！」

　レジで当然のように深雪の荷物を渚砂が受け取り、深雪はますます上機嫌で次のショップへの足取りも軽い。買った帽子はカフスをつけて遊ぶんだとか、スタッズチョーカーに合わせるチェーンアクセが欲しいとか、あれこれと楽しげだ。

「そういや、渚砂は欲しい物ないのか？　ずっと俺の買い物ばっかじゃんか」
「え、自分の？　ええー、お兄さんは深雪の笑顔があれば十分なんだけどなー……」
「は？　スマイルなんか0円だろ安定の毎日供給だろ！　遠慮すんなよ」

　フロアを移動する際に通ったキッチン用品の売り場で、渚砂の足取りが妙に遅いことに気づく深雪。振り返ってみれば、両手に持っていた荷物を器用に片手に移動させて、空いた片手で調理家電のパンフレットを手にとっている。渚砂はどうやら最近テレビコマーシャルを頻繁に流している、油を使わないフライヤーが気になって仕方がないようだ。

「（実物見ると欲しくなっちゃうなぁ、いいなぁ。でも新製品だから値引きなんてしてないし……こんな高いもの欲しいなんて言っちゃダメだよな）」
「ガン見するくらい欲しいなら買えばいいだろ」
「えっ！？　でっ、でもほら重いし！　いいよいいよ、サティの服とかまだ見てないだろ？」

　足を止めてしまったことを見とがめられたと思ったのだろう、わたわたと慌てながら断る理由を並べ立てる渚砂に呆れつつも苦笑いで、深雪は渚砂の手からパンフレットを取り店員をつかまえる。

「ねえ、これのシリーズで最新の機種って……あ、これ？　じゃあそれ一台。配送で頼むね、今住所書くから」
「たはは……」

　てきぱきさっさと注文を済ませ、二人が住んでいる星ヶ丘の寮までの配送もあっという間に手配をする深雪を、渚砂は深雪の荷物を抱えながら呆気にとられ見守るしかなくて。何だか、いつもこうだ。渚砂が振り回されているようで、深雪はちゃんと渚砂を見ているのだ。

「ありがとう、深雪」
「だからいいって。ほら、まだ買うぞ！　次はサティの服ー！」