仁義なきアウトレット・ウォーズ｜リアクション

仁義なきアウトレット・ウォーズ

「小倉」
「はっ、何でありますか」
「スイカ割りのアレ、まだ持ってるか？」
「アレ……と申しますと、商品券でありましょうか？」
「それ」

　商品券。それはお金のようでお金でない、だが持っているだけでどことなくブルジョア気分を味わえてしまう魅惑の紙片。荒海藤吾と小倉杏子が海開きのスイカ割りイベントで奮闘の結果ゲットした寝子島シーサイドアウトレット商品券、その額実に三万円！　ふたりで山分けしてもいちまんごせんえん！　健全な高校生男女からすればお正月に親戚が二～三人増えちゃった級の臨時収入である。加えて今は夏休み、財布の紐が緩むイベントには事欠かない……はずなのだが、藤吾も杏子も何故か今日まで、商品券の使い道を決められないでいたらしい。藤吾から商品券をどうしたか聞かれた杏子は当然のように元気よく答える。

「はいっ、いまだ手付かずであります！」
「何だ、小倉もか……。じゃあ、行くか？」
「へ？　ど、どちらへでありますか」

　天気もいいし、アイスを買いがてら散歩でも……と気軽な格好で外に出た杏子。そこを藤吾に捕まるだけならいつもと同じの平和な日常だったが、どうやら少しばかり話が違うようだ。

「使いに行くんだよ、今日からバーゲンだってよ」
「あっ、あー！　はい！　喜んでお伴いたします！　……と言いたいところでありますが」
「？」

　さすがにちょっとコンビニに行くくらいでは商品券を持っていなかったので……というような理由をもごもごと残し、慌てて自宅に戻る杏子。ちょっぴり浮かれたオーラを放つその背中を見送り、一人で行かずに誘ってみてよかったなと藤吾はゆるく笑う。

「（お買い物に誘われちゃったであります！　着替えたほうがいいか悩むであります……って、んん？？）」

　ちょっとそこまでのつもりでラフな格好をしていたから、商品券を取ってくるついでに着替えてしまおうか。そう思うのはおしゃれなシーサイドアウトレットに行くからだろうか、それとも。疑問符の理由に、杏子はまだ名前をつけられない。だが、ほんのりとその思いの存在には気づき始めていたのかもしれない。