【13】

「ここまでか……」
　草薙 龍八が被害状況を確認すると、ねこったーで結集を呼び掛けた。
　防衛軍も本格的に動き出し、本隊ももはや風前の灯。包囲網は完成されていた。
　集まった隊員は僅か７名。女子はおらず、全員男子である。
　草薙は敢えて仮面を外し、残る６名に熱弁を振るった。
「残存戦力よ、一箇所に集え……。多くの英霊たちが無駄死でない証のため……、諸君らの求めるエロスの道の後に続く者達のために……、迎撃の包囲網を一点突破で対象を一人に絞り、エロスを求めよ……」
「君は……、最後まで戦うんだね？」
　隊長の横嶋 下心も、度重なる妨害により、エロ行為ができずに禁断症状さえ出かかっている。
　草薙は無言でそれに同意すると、続けてメッセージを送り続ける。
「玉砕覚悟で突破せよ……。繰り返す突破せよ……。後世に語り継ぐための未来への道……、一人でも落延びよ……、突貫！」
「そうだ！　最後までエロ魂を燃やそう！」
「「おおっ！！」」
　遂に、体育館へ突撃し、防衛軍との直接対決の火蓋が切って落とされた！
　……かと思った。
「ちょっと待ってもらえますか？」
　体育館入口前に佇む金髪ドＳ眼鏡が１人。
「防衛軍参謀の加瀬 礼二です～。ちょっとお話聞いてくれませんか～？」
「あんたに用はない、変態、進め！」
　草薙が号令を掛け、力づくで体育館の扉をこじ開けようとする変態ども。
　だが、そこヘヒュンッと風切り音が響く！
「話を聞け、と言っているんです……」
　ベルトを鞭のように操り、変態たちを牽制する加瀬。
　絶対零度の視線を向けることも忘れない。
　ベルトを抜いてもズボンが落ちないのは、モデルのなせるワザなのだろう。
「しかし全く見苦しいですねぇ。馬鹿ですか、貴方は？」
　加瀬は手近な変態にけたぐりをかまして仰向けに寝転ばせると、その腹を思いっきり踏み付けた！
「大体、態度がなってない。頭が高い。声も耳障りです。息遣いすら煩しい」
　ぐりぐりと足に篭める力が強くなっていく。
　悲鳴を上げる変態に、ベルトの一撃が叩き込まれる。
「罵って構って貰える程可愛い人間だと思ってました？　勘違いも甚だしいですねぇ」
　顔は笑顔だが、全く嬉々としていない加瀬。
　助けようと近付く変態に、容赦なくベルトを打ち込んでいく。
「……誰が動いていいと言いました？　お仕置きして欲しいならそこに這いつくばってお待ちなさい。ああ、広い場所でお仕置きされたい方は体育館へどうぞ？」
　眼鏡のブリッジを中指で上げつつ、加瀬は張り付いた笑顔のまま変態を見下す。
　加瀬のドＳっぷりに、３人の変態が脱落するのだった。
「君たちの犠牲は忘れない！」
　横嶋が体育館の扉を開け放ち、続く３人も突撃していった！
「……あとは任せましたよ、逆巻司令官？」
　くつくつと笑いながら、変態３人を“調理”していく加瀬の姿は、のちのち『妖怪ドＳ眼鏡』として語り継がれることとなる。
　
「やぁ、待ってたよ。早速くたばってもらおうか」
　逆巻が体育館の中央で待ち構えていた。
「……って、草薙、やっぱりお前が関わってたのか。流石、思春期真っ盛りだね」
　仮面を脱ぎ去っている草薙と横嶋に呆れ返る逆巻である。
「ふん……、よくよく逆巻とはぶつかる機会が多いようだな。今日こそ決着を付けよう……」
「いいよ、どこからでも？」
　余裕の表情の逆巻。
「吠え面かくなよ？　穿て！」
　草薙がろっこんで圧縮空気を手の平から発射！
　その行く先は、逆巻ではなく、周りに退避していた女子生徒の足元！
　空気が爆散し、スカートがめくれ上がる！
「はははは！　逆巻、お前を殴るまでもない……。ここにいる女子たちを恥辱まみれにしてやる！」
　逃げ惑う女子生徒たちを、咄嗟に庇う逆巻。
「なるほどね、あくまでもセクハラ優先か。どうしようもない連中だね」
「何とでも抜かせ！」
　襲い掛かってくる防衛軍の足元に、草薙が何かをばら撒いた！
「うわっ！」
「痛っ！」
「それ、ダンスの時間だ！」
　ばら撒かれたのは、釘をくの字に曲げたものだった。
　これを踏んだ生徒たちの足元に圧縮空気を打ち込めば、まるで踊らされているかのように生徒たちが混乱し始める！
　しかも草薙自身は安全靴着用のため、釘を気にせず歩き回れるのだ！
「俺らも続くよ！」
　横嶋が狙いを付けるは、今しがた体育館に到着した『八十八旗ハーレム隊』の女子メンバーだ！
「ここは安全じゃないの！？」と高梨。
「既に戦場になってます！？」と哀坂。
「テロ屋、なんでベストを尽くした？」と吉祥寺。
「よーし、加勢しちゃうぞ★」と姫神。
「ふえぇぇ！？　誰か助けて下さいぃぃ～！」と胸を揉まれながら添木。
　更にはくるみ割り人形を口ずさむ桜庭も到着、もはや敵味方関係なくくるみ割りをしようとするバーサーカーっぷりを発揮する！

　♪たん、たかたたったんっ、たんったんったーぁ♪
　♪たん、たかたたったんっ、たんったんったーぁ♪

　一気に大乱戦となった体育館内！
　あまりの混迷ぶりに、トラップ発動する係までもが戦闘に駆り出されてしまう！
「こ、こんなはずじゃ……！」
　逆巻の眼鏡がずれる。
　苦戦を強いられる防衛軍！　このままじゃ危うい！
　そこへ……！
「援軍に来たのですよーっ！　さぁ、変態さんから女子を助けるのです！　男子？　女装すれば助けますよー？」
　葛城 璃人が高らかに宣言する！
　葛城魔王軍、防衛側として只今参上ッ！
「……葛城、後ろの面々が濃すぎるんだけど」
「天野さん、可愛いでしょー？」
　えへへっ、軍団員全員が可愛さアピール。
　新手の悪夢である。
　……何故か、その中に投降した行梨 謡までいた。
「仮面を剥がされて絶望していたところを、りぃが助けてあげたのです♪」
「あたし、ヨーコ！　行梨 謡？　だぁれ、それ？」
　あまりにもショックだったのか、記憶が混濁しているようだ。
　そこへ雨寺 凛と桐野 正也も到着。
　あまりのカオスぶりに呆然とする他ない。
「……だからナッシー、何やってるんだよ？」
＜ちょ、違和感が行方不明！？＞
　桐野のツッコミも今ひとつ切れ味が悪くなっていた。
　もはや収拾不能かと思えたその時！
　とある３人の乱入者が事態を大きく変える！