紅い玉がでるまで｜リアクション

紅い玉がでるまで

「……」
　びちびちと跳ねる魚を、本田誠也は無表情に見つめた。
　それが彼の、最高の喜びの表現だった。
　久々の大物だ。
　何とも言えない感動、満足感。法悦境。千年の愉楽。
「……」
　真顔。
　彼は、不器用だった。

　すごくうれしい。
　うれしいのだが、それを伝える方法がない。
　この感動を、だれかに伝えたい。分かち合いたい。

　その時、ポンと出る玉。
　明るいオレンジ色だ。
　足元に転がるそれを、彼は無表情に見つめる。

（これは……噂のアレっすか？）

　自分の喜びが、はっきりと色で示されている。
『すごくうれしい』その気持ちが、この玉に込められている。
　他これを受け取れば、自分の喜びを分かち合ってもらえるかもしれない。

（誰が一緒に感動してくれるか……見てみたいっす）

　拾い上げようとする誠也を、からかうように玉は転げ出す。
　ポンポンと跳ね、旧市街の方へ向かう。
　追いかける。

　だが、その時。
　旧市街の方から、たくさんの感情の玉が飛んできた！

　そのうちの一つが口に飛び込む。
　不意に強い気持ちが押し寄せ、目から涙があふれ出す。
　また別の玉が入り込む。
　誠也の気持ちが晴れあがり、唇が笑顔を作った。

　気持ちがピンボールのように跳ねまわり、泣いたり笑ったりする。
　それがおかしい。不思議に楽しい。
　笑いながら、泣きながら、彼は走り出す。

（ヘンな感じっす……普段ずっと真顔だから……）

　笑いながら走る誠也を、周りの通行人がぎょっと見た。
　無表情で有名な彼が、笑っていることに。
　しかもその笑顔が、違和感なく、むしろとってもよく似合っていることに。

　自分が笑っていることが楽しく、それでさらにうれしくなって、誠也は走る。
　色んな感情を確かめてみたい。
　そこで、誰かに一緒に感動してもらいたい……。

　そんな彼を見つめる、一つの影があった。
　彼女こそ、ミッシェル・ナイスゲイ！