サマー！部活動のお時間です！～文化部編～｜リアクション

サマー！部活動のお時間です！～文化部編～

　みんな思い思いに練習している中、鳴は鉛筆を手にキーボードの前で五線紙とにらめっこしている。
「鳴ちゃん、作曲してるの？」
　凛は尋ねた。
「うん、柄にもなく作詞とか作曲に挑戦しようと思ってる。高校に入って他の人と演奏するようになって、音楽がもっと楽しいってことを知ったから。
　あたしも何か形になるものを残したいって思って」
「いいね！　空ちゃんや鳴ちゃんが作曲してる曲を弾いてみようかな！」
　凛が言うが。
「でもなかなか理想通りにはいかない。音も言葉もなかなか浮かんでこない」
　鉛筆のお尻でコツコツ頭を叩きながら鳴は悩む。
「こういうのって人生経験の差が出るよね、きっと。あたしはその辺貧困すぎるからなー……ねえ、コツとか聞いてみてもいい？」
　鳴は、アリーセと空に質問する。
「人生経験は確かに大事だけど……仲村渠さんだってみんなが知らない経験をいっぱいもってるはずよ」
　アリーセが微笑んだ。
「あたしが？」
「沖縄出身でしょ？　沖縄の自然や空気のこと、いろいろ聞いてみたいわ。みんなと話をすることで、新しい発想が浮かんだりするかも」
「沖縄のことか～、うーん」
　慣れ親しんだはずの風景が、今は遠く感じられる。
　それはつい昨日のことのようにも思えるけれど、他人にどうやって伝えたらいいのか。
「私も、作詞が得意なアリーセさんと歌詞の案を出していったり相談したりしたいと思っていました」
　空も言う。
「それじゃ私も教えてもらおうかしら。ライブで新曲をやりたいのだけど、何か良いコトノハがないかしら？　イメージは、夏の夜、友達、始まり、まだ気付かぬ恋心」　アリーセが、紺色の表紙に小さく銀猫のシルエットが描かれた作詞ノートを取りだした。「～♪」が書き加えられている。
「コトノハ？　難しいな……夏の夜だと、花火とか？」
　優もしっかり話を聞いていた。
「花火ね……打ち上げ花火も線香花火も捨てがたいわね」
　アリーセがノートに書きとめる。
「友達や恋の始まりなら、まずは打ち上げ花火でしょうか。河面に映る花火もいいですね」
　空が意見を述べる。
　
　皆が盛り上がる中。
　瑠奈はそっと部屋を出ていく。
　皆は話に夢中だ。
　わずかに視線も感じたけれど、トイレに行くと思われたのか何も言われなかった。
　そのまま瑠奈はロッジを抜け出した。

「レコーディングスタジオに行ってみませんか」
　空が言った。
「うん、そうしてみようかな」
　大きく伸びをした鳴は、気分転換にレコーディングスタジオに行ってみることにした。
「それじゃ、俺も」
　優も一緒についてきた。
　見たこともない機材が並んでいる。
「こういう機材に触るのも初めてで、使い方とか全然わからないけど……今後のために覚えた方がいいのかな」
「ここに説明書があります。機材の電源がオフになっていることを確認してから、マイクの出力端子をミキサーに接続。音量設定のメーターが0になっていることを確認してから、ミキサー・アンプの順で電源をオンにします。切るときはその逆ですね」
　説明を終えた空は一番好きなドラムを叩き始めた。スティックを持つと人が変わったように動きが俊敏になる。
　アリーセは発声練習を始めた。
　お腹に手を当てて腹筋の動きを確認しながら、力強いロートーンから伸びやかに澄んだハイトーンまで一気に上げる。
「うん、いつも通り。皆で音合わせしてみましょうか？」
　そこでアリーセは気づく。
「あら、瑠奈さんは？」
「さっき部屋を出てったが……トイレじゃねえのか」
「鳴ちゃんたちが出ていったときにはもういなかったよ……遅すぎるんじゃ」
　ロッジ内のどこにも瑠奈の姿はなかった。

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