寝子島バロック狂騒曲｜リアクション

寝子島バロック狂騒曲

「とにかく、そうと決まれば、まずはバッハさんが出てきちゃった原因を突き止めないとねぇ。バッハさん、絵から出る前の状況って覚えてる？何か、気になることがあったら教えて欲しいなぁ。音楽室に誰かいたとか、気になるものがあったとか」
　陽太がバッハに質問する。
「絵から出る前の状況、デスカ……？」
「なんでこんな事聞くかっていうと、この島には神魂っていって、不思議な力が人や物に宿ってることがあるんだ。その影響を受けたかもしれないと思って」
「う～ん、よく覚えていないデス……。気づいたらこの部屋に立っていたのデス」
　バッハの答えに、皆は頭を抱える。
　凛はバッハの出てきた肖像画を調べている。バッハのいた肖像画はヴィヴァルディやヘンデルらとともに、教室後ろの壁に張ってあった。今はバッハのシルエットだけが空白になっている。もちろん、他にモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスら多くの作曲家もいるが、彼らの姿に変わりはない。
「出口があるなら入口もあるはず……だめ、裏も見たけど普通の紙ねぇ」
　結局凛は成果なしで戻ってくる。
「演奏かなにかをして、満足すれば元に戻る、とか？」
「さっきバッハ様はそれをやりましたから、違うと思います……」
　アリーセの説はエリューシアに否定される。だが、刀はその説にこだわりたいようだ。
「バッハさん、絵の中にいたとき、何かやりたいと感じたことはなかったかい？その気持ちに、神魂が反応したのかもしれない」
「肖像画にいたとき、生徒たちが演奏したり歌ったりするのをいつも微笑ましく思っていマシタ。でも、願望の心当たりは……」
　響也がさらに問いかける。
「なんでもいいです、バッハさんのなかで気になっていることはありますか？」
「気になっていること、デスカ」
　バッハは顔を上げた。
「あえて言えば、一つありマス。今のワタシには、生前の記憶はほぼ残っていマス。王様に曲を認められた喜びも、最初の妻に先立たれた悲しみも。でも、死ぬ少し前の記憶がぽっかりと抜けているのデス……」

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