箒星は夜闇を駆けて｜リアクション

箒星は夜闇を駆けて

◆
寝子島が如何に平和に見えようと、其処に人が住まうのならば悪意が生まれるのは必定。
今宵も、寝子島の闇には潜みし悪意が幾多蠢く。其を人知れず【矯め】ているのは、片翼の堕天使―ルシフェル―。
……要するに。
葦原忍穂は、夜の空気が心地よくて散歩をしていた。
「フン…今宵は人間達が憧れて居るな。天より墜つ刹那の煌きに惑わされたか…」
つまり流星群の話を聞きつけ、皆楽しみに夜の寝子島に繰り出しているということだ。多分。
そういえば、と昼中に高校で聞いたことを思い出す。
確か、桜台墓地の周辺は景色が良いとかなんとか。
「――脆弱なる者が闇に絡め堕とされるより先手を打たねば、な」
あまり遅くまで外に出ているのは危ないし、警告の一つでもしに行ってやろう。
ところで、堕天使が人間の心配をしていいんだろうか。

◆
時刻は午後１０時頃、ピークの大体１時間前。
現地で落ち合った浅山小淋と千鳥雅人の二人は、ピークの時間になるまで少しのんびりと過ごすことにした。
「立ちっぱなしだと疲れちゃうからね、これ持ってきたよ」
雅人が鞄から取り出したるは、折りたたまれたレジャーシート。
広げれば、二人が一緒に座ってもまだそれなりに余裕のある大きさだ。
『私は写真を撮ってみようかと思います』
レジャーシートを敷く隣で、小淋はいそいそと三脚とデジカメを準備する。
「もう準備するんだ？」
『慣れてませんし、時間になって慌ててやるのは大変ですから』
「それもそうだね……」
ふむぅ、と雅人。
直後アホ毛がピコーンと小さく逆立ったかと思うと、シートの重石にしていた鞄から懐中電灯を取り出した。
「この方が準備しやすいでしょ？」
明るすぎないように調整した光が、小淋の手元を照らす。
『ありがとうございます』
微笑み、小淋は準備を再開する。
デジカメのモードをマニュアルに変えて、感度他を設定していく。
最期に、シャッターボタンにあるものを繋いだ。
ソレは、先端にリモコンがついたチューブ――レリーズ、と呼ばれるものだ。
「何それ？」
『シャッターボタンを押しっぱなしにするための装置です』
天体写真は露出時間を長くとらないと撮れないし、その時間を伸ばした方が多くの流星を写真に収められる。
が、指で何分も押しっぱなしにするのは相当つらいし、ブレてしまう。
そこでこのレリーズの出番となる。
先にくっついたリモコン部分で、その操作ができるのだ。
「へぇぇ……調べたの？」
『せっかくですし、綺麗な写真を撮りたいですから』
撮るなら、綺麗な方がいいに決まってる。レリーズがちゃんと繋がっているを確認し、
『これで大丈夫ですね。明かり、ありがとうございました』
「どーいたしましてっ。写真、綺麗に撮れるといいね」
『はい！』
さて、まだピークにはいくらか時間がある。
夜空に浮かぶのは何も流星だけじゃない、夏の星座だって皆を見下ろしている。
雅人持参のあったかいお茶をお供に、そちらを見てしばし過ごそう。

◆
流れていく星々に誘われて、レティシア・ル・テリエは桜台墓地の近くまで。
「ふふ、とってもロマンチックです」
空を見上げ、少しうっとりとした声を漏らす彼女に、かけられる声が一つ。
「……脆く儚き人間よ、疾く安寧の繭へと還るがよい。貴様の掌では白く燃ゆる灯を掴めぬ」
見れば、赤と銀の瞳を持つ人物がそこに居た。ルシフェル、もとい忍穂である。
星々が流れる空の下に、神秘的な色の瞳――なんてロマンチック！
「ごきげんよう。あなたも、箒星の観察に？」
「箒星？　……ああ、天より墜つ刹那の煌きを人間はそう呼ぶのだったな」
忍穂の口ぶりに、小首を傾げるレティシア。
「人間は……？」
こころなしか、その瞳は輝いているように見える。
それに応えるように、ルシフェルとしての名乗りを上げる忍穂。
「フン、我が名は片翼の堕天使―ルシフェル―。ルシフェルと呼べ」
「まあ、堕天使さんだったんですね……！」
レティシアの瞳が輝きを増し、忍穂のカラコンアイに感動の眼差しが注がれる。
「私、堕天使さんとお話するのは初めてかもしれないです……！」
どうやら、「ルシフェル＝堕天使」を素直に信じてしまったらしい。
「申し遅れました、私レティシアと申します。……よろしければ、ご一緒しませんか？」
見上げる純粋無垢な緑の瞳に、
（フン……此の者は我が興味を惹くに足る資質を秘めて居る様だな）
忍穂も少し楽しくなって。
「良かろう。我は堕天使、貴様等人間とは比較する事すら不可能な程の魔力を持つ者。……故に、貴様が闇に呑まれぬ様に護る事など容易いからな」
かくて、お嬢様は堕天使に護られながら箒星の空を眺めることとなったのだ。

このページにイラストを設定する

箒星は夜闇を駆けて

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧