闇曜日の旧市街｜リアクション

闇曜日の旧市街

　倉庫の中は敵味方入り乱れた混戦状態だ。
　突進してきた冴来の目の前には、愛川が日本刀を手に立っていた。
「ああ？」
「ああ……」
　冴来は銃を構えて、恐る恐る撃鉄を起こした。
　全ての陣営が動きを止めて注目した。
　喧噪から、突然の静かさ。
「銃を下ろすんだ、冴来さん」
　静寂を破ったのは、日暮の言葉だった。
「ねむる……」
「君が撃てば、その銃弾は、君の心も撃ち抜くよ」
　冴来は撃てなくなった。
　鹿黒がズンズン歩いてきた。
「まったく……こういう所に顔を出すんじゃねェ」
　が、そのときもうひとつの銃がこの場に現れた。
「茶番はそこまでだ」
　武内は抜け目なく銃を隠し持っていたのだ。
「一人ずつ消えてもらおう」
　その後ろで、愛川はポケットに手を突っ込んで退屈そうに煙草を吸い始めた。
　武内は、銃口を金堂に向けた。
「金堂会会長だな。こんなに簡単にタマとれるとは運がいい」
「……」
　愛川はそれを見て首を振った。
「武内武内。違う違う。そんなオッサンは最後でいい」
「はっ」
「こういうときはよお、女から殺っちまうんだよ。なんかおもしれえだろ？」
　これが鬼畜の愛川だ。
「ほーらほらほら、いけいけいけいけ」
　武内は銃口を冴来に向け、発砲した。
　が、弾は逸れて天井に。
「円道、何やってんだ？」
　円道リキヤが武内の腕を持ち、その銃口を逸らしていた。
　そう、リキヤは冴来の顔を見て、思い出してしまったのだ。彼女のお願い、味方になってほしいというお願いを。
「ああ、なんつーか、その、あれっすわ。この女、俺好みなんで、もらって帰りますわ」
　リキヤは冴来を担ぎ上げると、すたこらと倉庫を出て行った。
　予想外の展開に、愛川は大笑い。
「ぎゃはははは……は。白けたわ。取引は終わりだ。解散！」
「解散なんて、させないよ」
　日暮は神無組や金堂会の面々が倉庫の入り口近くにいることを確認すると、スプレー缶で作った簡易バーナーを天井に吹きかけた。警報が鳴り響き、倉庫のスプリンクラーが作動する。
　武内は何が行われようとしているのか、すぐに気がついた。
「若頭」
「安心しろ、雨が降ってる。おもしれえ余興だこりゃ」
　愛川は水浸しになりながら、笑っている。
　日暮は、スタンガンを放り投げた。
「うぐわあああ」
　愛川は感電してガクガク震え、痙攣した。
　日暮は愛川を置いて、倉庫を後にした。

　倉庫の外では、リキヤは冴来を早々と降ろした。
「あんたの顔を見てると、俺ぁどうにかなっちまいそうだ」
　目をあわせずに、去っていった。
　そして、ようやく警察が集まってきていた。
　四角らに戦闘を任せつつ、金堂はブンさんにしっかりと連絡をとっていたのだ。
　金堂らは素早く海上から逃げ、闇鴉会とマフィアは拘束されていったが、その中に愛川、武内の姿はなかった。
　彼らは、抜け道を通って脱出していた。
　その様子を、別の倉庫の非常階段から確認している者がいた。
　黒のホットパンツにブーツ、口元は黒のマフラーで覆っていてよく見えないが、その狩りをするもののような目つきには特徴がある。
　常闇月は、確信した。
　私のフツウを守るため、世話になった神無組を守るため、今こそ自分の力をふるうとき……！