輝く石に願いをこめて｜リアクション

輝く石に願いをこめて

　　【私はあなたを想う一羽の小鳥】

　それは散歩の途中。御巫時子は、偶然その名前だけは聞くパワーストーンが売っているというお店を見つけた。
　興味はあるけれども、石の意味は全く分からない。
　「……………」
　それでも、今日は散歩の途中。
　興味が勝って、出入り口にあったカラフルな石の説明が載っている説明書きを読みながら、時子は店内へと足を踏み入れていった。

　お店に入って驚いたのは、その石の種類と、形。
　「ウサギさんや、カエルさんの形も……」
　しばらく何となく眺めていたが、その中のある一点で時子の目が大きく輝いた。
　「鳥さんもあるのですね……」
　それは大きさから、色まで様々な形のものがテーブルの上に陳列されていた。
　目を奪われてしばし、心奪われるように眺めていると我に返れと言われんばかりに人にぶつかってしまった。
　慌ててお互いに謝罪を繰り返して、それでもまた時子の心は鳥の細工物の中にあった。

　「これは尚輝先生の鳥さんに似てますね……」
　店員さんのアルバイト、暗道忍の説明によると、その鳥の素材は緑色のブルートパーズで出来ているとのこと。
　誕生日を聞かれ、１１月と答えると「トパーズは１１月の誕生石ですから身に着けると良いかも知れませんね」と笑顔で教えてもらえた。
　「トパーズは恋愛成就の効果あり…？」
　どこで見抜かれてしまったのだろう、こそりと秘密情報のように囁くように教えてくれたトパーズの効果の一つを聞いて、思わず胸が高鳴った。
　思い浮かぶのは、化学部の顧問、五十嵐尚輝の顔。
　端から見ると良く分からない先生だが、沢山の接触を図ってきた時子ですら良く分からない事の多い先生だ。
　もっと傍に居たい。もっと先生の事を沢山知りたい。
　そう想うだけで、胸の高鳴りが隠せない。
　心臓の音が聞こえてしまったらどうしようと、思わず胸を押さえてから。顔まで赤くなってはいないかと、慌てて両手で顔を押さえてみる。

　このままではいけないと、何回か落ち着く為に深呼吸して、時子は改めて石と向かい合った。
　バード・カーヴィングの石はその細工の細かさや大きさから、値段もまちまちだが、同じ大きさと金額でさえその表情が違う。
　学生の財布で選べる範囲から、時子は更に手を出せる小さな鳥達と、石の説明書を睨めっこして、自分に「合う」と思った石を購入する事に決めた。

　「すみません……、これをペンダントトップにしたいのですが……」
　これ、と決めて。カウンターに向かい、細工物を作っている店長代理・磴琥珀の所へと持っていく。
　「確かにこれは素敵ですね。このタイプのペンダントトップですと石に穴を開けなくてはならないのですが……少し勿体無いですね。
　かと言って、普通の天然石のタンブルを入れるペンダントトップのワイヤーですと、籠に入っているように見えてしまいますし……
　少々お待ちください」
　琥珀はそう言うと、一本の細い銀ワイヤーと、そのワイヤーを痛めない専用のペンチを用意した。
　そして、揺らしても逆さまにしても落ちない、まるで飾るかのように最低限のワイヤー細工でその鳥の石を固定した。
　「これで上部にチェーンを通せばペンダントトップになります。
　かなり繊細ですから、少しでもおかしいなと思ったら無料で修理しますので、是非お越しください」
　石はワイヤーにしっかり固定されているが、その面積は非常に少ない。
　まるで、小鳥に銀の模様が差しているように見えた。
　細工はおそらく琥珀のオリジナルアレンジだろう。他のお店で修理を頼んでも、ほぼ断られてしまうに違いない。

　「ありがとうございます……」
　声音は変わらないが、出来上がりに心は弾んだ。
　今日は洋服だから、さっそく付けることにしてみる。
　そして、そのままお店から出て、嬉しさのあまり、鳥と会話の出来る時子のろっこん【鳥の囀り】を使って、傍を飛ぶ鳥に声を掛けた。

　「鳥さん、今日は素敵な石を手に入れたんですよ……？」

　いそいそと肩に止まって話を聞く鳥に、時子は嬉しそうにお店の様子とつけているペンダントについて語りながら、自分の寮へと帰って行った。

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輝く石に願いをこめて

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